IPOを実現したいスタートアップ経営者のためのセミナー

上場のメリット:資金調達の魅力

 上場のメリットは、先ほど申し上げた通り資金調達ですね。間違いなくお金が入ってくることが上場のメリットです。だたし、多くの場合はIPOのときだけです。その後は資金調達はなかなかできないというケースが多いです。IPO後に資金調達をするケースというのは、指定買いと言って、ジャスダックに上場した、あるいはマザーズに上場した後2部になるとか、1部に上がるとかというときに、ついでに資金調達するケースはありますが、これも全ての会社がやっているわけではありません。また、マザーズとかジャスダックとかが東証の2部とか1部とかに上場するときも、結構な審査があります。それには証券会社にもお金を払わなければなりません。監査法人にもお金を払わなければなりません。社内で準備を相当していかなければなりません。ということで、結構なコストが掛かります。上場のメリットは間違いなく資金調達です。簡単に言うと、返さなくても良い資金を調達できるということです。このメリットを取れるか取れないか、生かし切るのか生かし切れないのかというのが、上場するのか上場以外の方法を検討すべきなのかという一つの分かれ目になってくるところだと思います。
 先ほど上げていただいた以外に、上場のメリットはあると思いますか。他にないですか。では、上場はもうやめておきましょうか。

-- 先ほどおっしゃった個人保証が外れるというのもメリットですか。

大原 それは大きいですね。経営者にとってはとても大きいメリットです。

-- それから、ある種の引退ですね。パブリックになるので。自分の自由にならない代わりに、その管理部門から経営者が外れることができるということであれば、それもメリットなのかなと思います。

大原 そうですね。上場するということは、以前は経営者が退くことの手段だったのです。引退する手段だったのです。長いこともうかっている会社は、相続するのがとても大変なのです。何が大変かというと、相続税が高いのです。相続税には会社のお金は使えません。相続するのは息子さんであり、娘さんであり、ご主人が先に亡くなったとすれば奥さんです。会社にたくさんお金があったとしても、それは使えません。でも、社長であるオーナーが亡くなってしまったら、明らかに価値のある会社を引き継がなければいけないですから、相続税のお金を払わなくてはなりません。そのお金を用意するのは結構大変なのです。ですから、かつての、地方の名士のような会社は、今のジャスダック、店頭登録のところに取りあえず上場するのです。上場するといったんお金が入ってきます。キャッシュがあれば相続税が払えます。いくら親父の会社の株が高かったところで、10兆円持っていようが100兆円持っていようが、キャッシュであればそのうちの一部を相続税として払えば良いわけですので、どうということはありません。

困るのは、一つは土地、建物の不動産です。しかも、自分の家で住んでいるところが高かったりすると、もちろん相続税は払えますが、土地建物を売らなければいけなくなってしまいます。土地建物は、頑張れば多分売れますからまだいいです。多少損するかもしれませんが。非上場の会社の株というのは結構きついです。なかなか売れません。買ったほうも困ってしまいますね。ですから、昔は上場したのです。上場すれば、少なくとも半分ぐらいは世間一般の方が持っていますし、オーナーが仮に引退をして、あるいはもう少しすると危ないかなと、あと2、3年すると亡くなってしまうかなというときになったら、市場に売れる可能性があります。いつでも売れるわけです。この差は結構大きいです。地方のいわゆる名士の会社、ずっと店頭公開であり、ずっと大証や東証の2部に20年30年張り付いていて、この会社何のために上場したのかと外から見ると思われるような会社というのは、それは相続税対策なのです。最近それが減ってきています。長年にわたって純資産を積み上げてきてしまって上場しないと相続税が払えないような会社は、だんだんなくなってきていますので、そういう意味での相続税対策の上場は少し減ってきています。一つは相続税対策という意味合いが上場にあったことは間違いありません。ここが大きなポイントです。会社にお金があっても、それはあくまでも会社のお金なので、それは相続税を払うのに使えません。相続を受けたのであれば、受けたご家族がキャッシュを払わなければならないわけなので、ここが大きなポイントです。かつては上場の大きなメリットでした。今でもメリットではあるのですが、そこに該当する会社の数は減ってきていますので、あまり注目されないポイントになりつつあります。

 その他に上場のメリットはありますか。この資金調達のところに間違いなく関わってくることです。ほとんどの会社が新規に資金調達できていないということを申し上げましたが、中にはやっている会社もあります。ソフトバンクはうまいです。イーモバイル、会社名はイーアクセスですね、ビジネスはほとんどイーモバイルになってしまいましたが、ソフトバンクはあれを買収していますね。1500億円ぐらいで買収しているのですが、全くキャッシュを使っていないのです。株式交換という手法を使っています。株式交換というのはどういう手法かというと、イーアクセスは立派な東証1部の上場会社だったので株主が多くいるわけです。千本さんや、その他ファンドの方が、たくさん株を持っていたと思いますが、それ以外にも株主がいるわけです。私もその中の1人だったのですが、株式交換というのはこういうことです。

イーアクセスの株を持っている人、あなたたちに1株当たりいくらかのソフトバンクの株を差し上げます。つまり交換してくださいということです。そこの価値というのは、いろいろな、いわゆる優秀な人たちが計算して、イーアクセスの株主がそれ程不利にならないように普通は設定されています。これを断ってしまうと、イーアクセスは非上場になってしまいますから、売れなくなってしまいます。ソフトバンクは上場を継続していますので、ソフトバンクの株に代わっていれば、イーアクセスが上場を廃止した後も売れるわけです。ですから、継続して上場会社の株を持ち続けることができるわけです。嫌な人はそこで売ってしまえば良いわけです。イーアクセスが非上場になるまでに猶予期間がかなりありますから、その間に売ってしまえば良いわけです。このようなやり方をします。そのソフトバンクの株は、ソフトバンクがどこから持ってきたかというと、増資です。新たにその株を出したわけです。新たにソフトバンクの株を、イメージとして1500億円分刷って。実際の株式では今は株券を発行していませんので刷ってはいないのですが、イメージとしては刷ってそれとイーアクセスの株とみんな交換してしまったのです。

ですから、一銭も払わずに1500億円相当のイーアクセスを買収してしまったのです。あれが買収できたので、ソフトバンクはつながりやすくなったのです。この要因、つまりイーアクセスの回線を使ったというのが大きいのです。第三者割当増資と言いますか、募集して実際にお金を入れてもらったわけではないのですが、実質それと同じやり方をしているのです。だから株価を維持しておく必要があるのです。株価が高く、これから先も伸びると多くの人から思われている株であれば、応じてくれるはずです。しかし、この先どうなるか分からないような会社が「イーアクセスの株とうちの株いくらかと交換してください」と言ってもみんな嫌がって成立しません。ですから、こういう将来の資金調達のことを考えて、面倒くさいですがいろいろなIRをします。ソフトバンクは必ず孫さんがわざわざやりますね。自分がしゃべって、それをユーストリームなどで生中継しますね。その後FacebookやTwitterに書いたりしていますが、それらはこのためです。そこまでやり切れる会社であれば、上場しているメリットはかなりあるはずです。そこまでやり切れずに、言われたから開示をするとか、言われたからIR部門を維持しているというようなスタンスであると、結構厳しいというのが今の実態なのかなと思っております。資金調達というのは間違いなくメリットです。

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