M&Aのハウツー

M&Aにおいて一部門を譲渡する際の注意点

 今日は、一部門を譲渡する際の注意点というテーマです。
まず“一部門を譲渡する”というのはどういう事かを確認します。

 通常M&Aというと、株式譲渡を想定される方が多いと思います。改めて、株式譲渡とはどのようなものかを整理します。
 売り手とは、対象会社のオーナー(株主)となります。中小企業の場合は、社長が株主を兼ねていることが多いので、株主兼社長のような方が株式譲渡における売り手になることが多くなります。
 その方が持っている会社の株を、買い手が買うというのが、シンプルなM&Aとなります。何も言わないでM&Aというと、ほとんどの方がこれを想像すると思います。但し、この場合(株式譲渡)、対象会社の権利は全て買い手に移ってしまいますので、100%の株を譲渡した場合、例えば、この対象会社が店を3つ持っていた場合、3つ全ての権利義務が売り手から買い手に移ります。
 もしかすると、3つのお店(事業)の内、1つのお店や1つの事業のみ、買い手が欲しい場合もあるかと思います。実務的に言えば、このようなケースは意外と有ります。場合によっては、不採算部門(事業・店舗)のみを売却したい「儲かっていないから、それだけを引取って欲しい」というように考える売り手の方もいらっしゃると思います。一方で、「儲かっていない事業はいらないから、儲かっている事業のみ売って欲しい」という買い手の方もいらっしゃいますので、部分的に会社の一部だけを譲渡しなければいけないというケースも思ったよりあるわけです。
 そのような時に、株式譲渡という通常のスキームを使ってしまうと、言い方が悪いですが“いらない部分(事業)”も含めて、会社を丸ごと引き取らないといけない訳です。

 それを避けるための1つの方法が“事業譲渡”となります。事業譲渡というスキームは、会社の一部を切り取って売買の対象とすることができるので、先ほどの“株式譲渡”の絵とは少し変わってきます。
この“事業譲渡”の売り手というのは、先ほどで言うところの対象会社になります。自分の会社の一部を切り取って買い手に売る訳ですので、対象会社が“事業譲渡”の当事者となります。
 1つの会社の中にビジネスが3つあり、そのうち1つのビジネスを買い手に買ってもらう。こうなると、当たり前ですが対象会社というのは譲渡契約の当事者となりますので、譲渡代金はこの売り手である対象会社に入ってくる(支払われる)ことになります。
この点が、株式譲渡と少し違う所です。事業譲渡については、別途ビデオにて解説をしていますので、そちらでご確認ください。

【経営者が知っておくべき事業譲渡】

 このような形で、会社の一部譲渡というのが行われています。事業譲渡というのは、これはこれで便利な部分もあるのですが、デメリットもあります。理由があって、事業譲渡のスキームは使えないという事があります。しかしながら、どうしても会社の一部だけを欲しいといったニーズも有ります。
 そのような場合は、そもそもの売買の対象となる会社の内、譲渡の対象としたい事業の一部のみを新しく作った会社に振る(会社を分けることができる)ことができるのです。
これを“会社分割”と言いますが、例えば譲渡の対象としたい会社のほんの一部のみを譲渡したいとします。その一部を切り取って新しい会社に振る訳です。その新しい会社の株を売り手と買い手で売買するという事を行います。このようなやり方もあるわけです。
このスキームは、弁護士の先生にキチンと相談して頂き、法的に問題が無いかの確認を取って頂きたいと思います。やり方はいくらでもあるという事です。

 どうしても、会社とか事業の一部を譲渡しなければならないといったニーズはあるわけです。ですので、一部門を譲渡するということは比較的、頻繁に起きているという事です。

その際に注意しなければならないことですが、会社の一部(一部門)の譲受をする場合には当然ですが“当該部門の情報が必要”となります。
 全社の数字(BS、PLなど)ではなくて、譲渡の対象となっている部門でやお店の情報がないと話にならない訳です。なぜならば、会社全体を引取るわけではないためです。
えば、全く利益が出ていない事業を譲受しようとした際に、会社全体の数字を見て「こんなに儲かっているのですか?」と言っても何も意味がない訳です。
反対に、会社全体としての業績は良くないのですが、業績の良い事業を買収して、売り手はその資金を基に、残っている会社(事業譲渡しなかった事業)を再生したいといった場合は、会社全体を見れば悪いに決まっている訳ですので、「こんなに悪いのかと考えても仕方がないのです。
 ターゲットとなっているお店もしくは事業の財務状態もしくは、契約関連などを把握しなければならない訳です。そのような事から、会社全体の財務数値を入手しても始まらない訳です。
 むしろ売り手の方にとってみると、「売買の対象となっていないような事業の情報を、なんで買い手候補に出さなければいけないのか?」といった話になる訳です。そもそも会社全体は売り物でなく、会社のほんの一部が譲渡対象でしかないのに、「それ以外の情報をなぜ提供しなければならないのか?」というのは売り手の立場に立ってみれば当然のことになります。
 買い手としては、譲渡対象外の情報も「提供してくれるなら欲しい」と言われる方も当然いらっしゃると思いますが、「その情報をもらって何に使うのですか?」というところもある訳です。お互いのメリット・デメリットのことを考えると、しっかりとフォーカスをして必要な情報を取っていくこと念頭に置いておかなければならないのです。
で すから、全社の数字がどうしても欲しいと、例えばM&Aの本に“M&Aをする際は、少なくとも全社の過去3年間分の決算書が必要”と書いてあったから「3年間分の全社の数字をください」と言っても意味がない訳です。譲渡の対象(ターゲット)となっている箇所(部門)の数字を見なければいけないという事になります。

一部譲渡のバリュエーション
 では、その一部の譲渡の時の金額のつけ方についてですが、基本的に株式譲渡の場合と変わりません。ターゲットとなっている対象事業の財務諸表の数値をベースにバリュエーションを実施することになります。
 これは中小の事例(案件)になると、実務的にネックになる所です。部門別或いはお店別の収支・財務状況をくださいとお願いしても、現実問題として作成していない会社があります。先ほど、全社の数字を見ても仕方がないと言いましたが、全社の数字は年に1回税務申告をしなければいけないため、どの会社も基本的にはあります。しかし、対象となっている事業・お店の数字が無い。こうなると基本的には諦めることになると思います。
どれくらい稼いているかさっぱり分からない、どのような資産を持っているかさっぱり分からない といった事業の買収は中々できません。但し、それで諦めるのはもったいないというのであれば、我々はこのようなやり方を行います。
 少なくとも売上に関しては実在していないと話になりませんので、過去の売上の実績がどれぐらいであったのかといったチェックをして頂きます。これは財務デュー・ディリジェンスの一環でもありますが、それほど難しいことではないです。
 売上が分からないのであれば、その案件は止めた方が良いかもしれません。売上が全く分からないというケースは殆んど無いので、そのデータをベースに本当に入金されているのか?を預金通帳などでチェックすればよいのです。そう考えればさほど難しくはない訳です。

 では、売上だけしか分からなくて、事業の譲渡ができるのか?価値の算定ができるのか?という話ですが、買い手が買った後にどのように経営をしていくのか?ということを想定します。例えば、店舗を想像してもらえると分かるかもしれませんが、“意外と難しくない”のです。かかる経費と言えば賃料があります。あるいはスタッフの方の人件費、あとは店舗で使う消耗品類、或いは飲食店などであれば部材や商材などがあると思いますが、あと水道光熱費などその他もろもろです。
 事業を買収した後に、どんな経費が掛かるのか?どんなコストがかかるのか?というのは意外とシミュレーションできるものなのです。自分が譲渡を受けた後に、「このような体制でやっていくのだ」と経営していこう。数字もシミュレーションできるので、そのシミュレーションした数字をベースに金額を算出していこうというようなことができる訳です。
勿論、売り手にとってはちゃんとした情報・数字を出し、自分たちが有利に交渉を進めるようにした方が良いに越したことはないですが、そうは言ってもそのような部門別の数字なんて今まで作ったことが無い。そうなると、どうしても今回事業を売りたいと言うのであれば、買い手の立場に立って、協力してそのようなシミュレーションをすることもできます。
 M&Aというのは多種多様の案件によって事情が異なりますので、「数字が出て こないので、情報が不足しているから買収は止めよう」というように考えるのでは少しもったいない案件もあります。必ずしも、このようなやり方で一部譲渡のM&A案件全てが
上手くいくわけではないのですが、工夫の仕方によって、このような事が出来るという事を覚えて置いて頂きたいと思います。

 事業譲渡はこの一連のビデオの中で何度か紹介しておりますが、事業譲渡契約は個別にリストアップしていきます。「これとこれとこれを下さい」と「これとこれとこれを譲り渡します」といった契約になりますので、簿外債務を引き継ぐ必要が無いのです。つまりはリスクが非常に低いのです。但し、株式譲渡の場合は会社丸ごとになりますので、譲渡をしたときに気が付かなかった債務や負債を引き継ぐ可能性が有ります。事業譲渡にはそれが無いので、財務のデュー・ディリジェンスについてもやり方次第では、かなりコストや工数も軽くなります。つまりは、コストや時間やリスクも取らずに、事業を譲渡することができるのです。

 このようなやり方もあるのだという事を皆さんには是非知っておいて頂きたいと思います。

本誌は、M&Aを売り手、買い手、アドバイザーが三方良し、となるのが当たり前の世界の実現を目指しています。そのためには当事者が正しい情報を得て、安心して相談のできる場が必要です。その実現に向けて本誌は、日本M&Aアドバイザー協会で、以下のサービスやセミナーを提供しております。
                                                                                                                                                     
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