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高級時計店の窃盗は、ビジネスモデルのリスクである

高級時計店の窃盗は、ビジネスモデルのリスクである

東京都中野区の中野ブロードウェイにある時計店で、腕時計4本が盗まれました。被害総額は約2億円とみられ、単純計算で1本あたり約5,000万円です。

この事件を、単なる高級品店の防犯問題として捉えるべきではありません。高級時計が、店舗のビジネスモデルそのものに大きなリスクをもたらしていることを示しています。

5,000万円の商品は、通常の商品ではない

1本5,000万円の時計は、もはや一般的な小売商品とはいえません。

小さく、軽く、価値が高く、国境を越えて持ち運びやすい。現金や不動産と比べても、資産の移転が容易です。所有者や取引経路を分かりにくくすることもできます。

そのため高級時計は、正規の投資対象である一方、資産移転、マネーロンダリング、脱税などに利用される可能性もあります。もちろん、すべての購入者や販売店に問題があるという意味ではありません。しかし、商品特性として、通常の小売品よりも高い管理・規制リスクを抱えています。

高級時計店は、単に商品を販売しているだけではありません。実質的には、高額資産を保管し、所有権を移転する拠点になっています。

店舗に集中するリスク

店舗側が負うのは、盗難リスクだけではありません。

高額在庫を店舗内に保管するリスク、強盗・窃盗の対象になるリスク、盗品が海外へ流出するリスク、顧客の本人確認や資金源確認のリスク、税務・マネロン規制に対応するリスクがあります。

これらは、個別の管理ミスというより、ビジネスモデルから発生するリスクです。

商品単価が数十万円、数百万円であれば、店舗に展示して販売するモデルは成立しやすいでしょう。しかし、1本数千万円の商品を同じ方法で扱うことには限界があります。

管理強化にもコストがある

対策としては、すべての商品を店舗に展示せず、商談成立後に専門の保管施設から搬入する方法があります。予約制の商談、購入者の本人確認、資金源の確認、取引記録の保存なども必要になるでしょう。

ただし、管理を強化すればよいという単純な話ではありません。

警備員や金庫、保管施設、本人確認、取引記録などを増やせば、コストと手間が増えます。店舗で実物を見られなければ、顧客の購買意欲が低下し、販売機会を失う可能性もあります。販売プロセスが複雑になれば、売上や利益率を圧迫することもあります。

つまり、管理強化はリスクを下げる一方で、売上と利益を犠牲にする可能性があります。

このバランスをどこに置くかを決めるのが経営です。事故をゼロにするために過剰な管理を導入すれば、事業そのものが成立しなくなる。逆に、販売機会と利益を優先しすぎれば、巨額の盗難や営業停止によって事業が揺らぐことになります。

保険にも限界がある

高額在庫を抱える以上、店舗は盗難保険への加入を考えます。しかし、保険に入れば解決するわけではありません。

保険会社から見れば、5,000万円の商品は評価額の妥当性を確認しにくく、盗難後の海外流出を防ぐことも困難です。店舗の警備体制や保管方法によっては、補償範囲が限定されたり、免責となったりする可能性もあります。

事故が繰り返されれば、保険料は上昇し、補償限度額は抑えられます。場合によっては、引受け自体が難しくなるでしょう。

保険はリスクを消すものではなく、一定の条件のもとで損失の一部を移転する仕組みにすぎません。

経営が決めるべきこと

高級時計の価格上昇は、店舗にとって収益機会です。しかし、商品価値が上がるほど、在庫リスク、犯罪リスク、規制リスク、保険リスクも高まります。

1本5,000万円の商品を販売すれば大きな利益を得られるかもしれません。一方、その商品を店舗に置いている時点で、店舗は数千万円単位の損失リスクを負っています。

中野ブロードウェイの事件は、高級時計が狙われやすいという話にとどまりません。

「何を売っているのか」によって、必要な管理体制も、保険も、規制対応も変わります。高級時計店は小売店の姿をしていますが、実際には高額資産を扱う保管・物流・資産移転ビジネスに近づいています。

管理を強めれば、売上と利益は圧迫されます。管理を緩めれば、重大な損失を招く可能性があります。その最適なバランスを設計することこそ、経営の仕事です。

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