契約と法律だけでは、組織は動かない

契約と法律だけでは、組織は動かない
20代の4割が、業務時間外の会社からの連絡を見ない、あるいは返信しないという調査結果が出ました。一方で、20代の約3割は、長時間労働の経験が成長や仕事の糧になると考えています。
この数字は、若者が仕事をしたくないことを示しているのではありません。仕事から離れる時間は守りたい。しかし、成長機会は失いたくない。その揺れる意識が表れています。
問題は、かつて存在した雇用関係の「あいまいな交換」が崩れていることです。
以前は、会社が無理を言うこともありました。若手もそれに応えました。その代わり、難しい仕事を任され、修羅場を経験し、将来の機会を与えられる。契約書には書かれていなくても、実質的には「負担を引き受ける代わりに成長機会を得る」という関係が成立していました。
もちろん、この仕組みには長時間労働や過剰な忠誠心を強いる問題がありました。したがって、一定の修正は必要です。
しかし、修正の過程で、契約と法律だけが前面に出るようになりました。
時間外連絡は問題になる。契約外の仕事はさせられない。厳しい指導はハラスメントになる。休日対応は労務管理上のリスクになる。
こうして雇用関係が、契約書に書かれた権利と義務だけに分解されていきます。
弁護士に組織運営を委ねると、この方向に進みがちです。弁護士はトラブルを防ぐために、曖昧さをなくし、責任範囲を明確にしようとします。それ自体は正しい。しかし、経営や人材育成まで同じ発想で処理すると、会社は「契約に書いていないことを頼まない」、社員は「契約に書いてあることしかしない」という関係になります。
契約と法律は、揉めたときの基準です。しかし、通常の組織を動かすのは、契約には書きにくい信頼、期待、裁量、相互の貢献です。
「仕組み化」も同じ問題を抱えています。仕組み化とは、業務を再現可能にするための形式化・標準化です。品質を安定させるためには不可欠ですが、成長や挑戦、信頼まで標準化することはできません。
形式化を進めるほど、組織は安全になります。しかし、安全になりすぎると、誰も契約外の貢献をしなくなります。会社も、失敗の可能性がある大きな仕事を若手に任せなくなります。その結果、社員は守られる一方で、成長機会を失います。
本当に成長したい、成果に応じて報酬を得たい、仕事の進め方を自分で決めたいという人には、雇用契約よりも委任契約や業務委託契約の方が適している場合があります。
ただし、ここでも重要なのは、契約形式と実質を一致させることです。
業務委託でありながら、勤務時間や場所を指定し、細かな指揮命令を行い、成果ではなく労働時間で管理するなら、実質は雇用です。反対に、雇用契約でありながら、会社は教育も裁量も与えず、委任契約のように成果責任だけを求めるのも不適切です。
雇用契約は、会社が仕事、教育、一定の生活保障を提供し、社員が組織の一員として働く仕組みです。
委任契約や業務委託契約は、本人が裁量とリスクを引き受け、成果や価値に応じて報酬を得る仕組みです。
現在の日本企業は、雇用契約の安定性を維持したまま、委任契約のような成果責任、成長意欲、自律性を社員に求めがちです。ここに無理があります。
これから必要なのは、雇用と委任の関係を曖昧にしないことです。
守られる代わりに組織の一員として働くのか。あるいは、裁量と収益機会を得る代わりに、リスクと自己責任を引き受けるのか。
その選択を、契約の形式だけでなく、仕事の与え方、報酬、裁量、責任といった実質にも反映させなければなりません。
契約と法律だけでは、世の中は動きません。しかし、形式と実質がずれたままでは、信頼も組織も維持できません。求められているのは、曖昧さをすべて消すことではなく、どこまでを契約で定め、どこからを信頼と裁量に委ねるのかを設計することです。
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