企業評価の方法について
続いて、企業評価の方法についてお話ししていきます。企業評価の種類というのが幾つかあるのですけれども、ここでご説明しようと思っているのが、代表的と考えられるDCF法、回収期間法、内部利益率法と類似会社の比較方法です。
計算方法が一番難しいのはDCF法です。これは、考え方だけ理解しておいていただければと思うのです。なぜかというと、DCF法はやらなければいけないことが二つあります。一つは割引計算というもので、これがバリエーションとかファイナンスの本でかなりのページ数を使って通常説明をされています。なかなか理解するのが難しいのです。
それに加えて、将来のキャッシュ・フローというのを計算しなければいけないのです。キャッシュ・フローとは一体何なのかというと、もっと簡単に言うと、この投資案件とか、この会社というのは将来一体幾ら稼ぐのかということを見積もらないといけないのです。それは、事業計画をベースに計算をするわけですけれども、今の世の中、その事業計画を5年後、10年後、20年後まで正確に立てるのは難しいです。ですから、よほどの大きい会社で、このようなことになれているかたがたでないと、このDCF法を使って意思決定をしていくというのは結構大変なのです。とはいいながらも、会社の価値を計算するための表ベーシックな方法ですので、ぜひ考え方を押さえておいていただきたいと思っています。
回収期間法というのが次にありますが、これも結構大切です。投資をして、一体これを何年で回収ができるのかということを計算する方法なのですけれども、ある投資案件があって、投資回収するまでに150年かかりますと言ったら、よほど例外的なビジネスでない限り、ほとんど誰も投資しないと思うのです。例えば、5年で回収できますと言われたら多少考えると思います。この年数というのは、ビジネスと種類によって違うのですけれども、基本的には単純ではありますが、幾つかの投資案件があったときに、あまりにも非現実的なものを足切りしたりするというフェーズでは結構便利なものです。最終意思決定をするときに意外と回収期間で考えたりすることもあります。ベーシックですけれども、とても重要な概念なので、これについてもご説明していきます。
内部利益率法という方法が次にあって、これも、投資案件の足切りみたいなときに使っていただいたほうがいいのかなと思うのですけれども、キャッシュ・フローの現在価値がゼロとなる内部利益率というのを算定する方法です。これは後ほどご説明します。計算自体はエクセルの関数でできますので、簡単にできますけれども、それが、どんな意味を持っているのかというのは、後ほど説明をしたいと思います。ただ、これだけで意思決定をするのは、とても危険です。
最後に、類似会社の比較法。これは、実際の投資意思決定をする際の参考には、あまりならないと思います。上場している同業の会社の株価を参考にして、うちの会社の株価は、大体どれくらいなのだろうということを類推する方法なので、参考にはなりますけれども、これは、そのままで意思決定するというのは、とても危険な方法なのかなと思っています。どんな方向なのかというのは、最後簡単に紹介したいと思います。
具体的に企業評価をしていくときに大切なことなんですけれども、キャッシュ・フローで全て考えるのです。利益ではなくてキャッシュ・フローで全て考えることになっています。
なぜ、これは、わざわざ利益ではなくてキャッシュ・フローで考えなければいけないのかという話なのですけれども、最近の例で言いますと、例えば、NTTとKDDIとソフトバンク、この通信3社の介護評価をしようとした場合に、利益をベースに3社の評価をしようと思うと、必ず間違えるのです。間違った結果になるのです。キャッシュ・フローで考えると間違った結果にならないはずなのです。なぜかというと、この3社は少し特殊なのですが、NTTはアメリカに上場していますので、アメリカの会計基準を決算を発表しています。KDDIは日本の会計基準で、決算の発表をしています。ソフトバンクは、国際財務報告会計基準といって、IFRSという基準で決算を報告しています。この3社、似たようなビジネスをやっているのですけれども、会計基準が違うのです。大きな差は、最近はなくなっているんですけれども、会計基準が違えば利益が違ってくるのです。例えば、NTTは別項会計基準ですけれども、日本会計基準で処理した場合、IFRSで処理した場合は利益は変わってくるのです。
それ以外にも、減価償却の方法、ご存じない方もいらっしゃるかもしれないのですが、定額法とか定率法とか他の方法もとられています。それは、どれを使ってもいいです。耐用年数とか何年で、この資産というのは使い終わりますかと、その年数に応じて、買った固定資産の金額を配分するのですけれども、それを減価償却というのですが、その年数を企業が独自に決められるのです。となると、利益の数字というのは、ある程度いじられるのです。いじられるし、よって立つ会計基準が違うと、数字というのはぶれてしまうので、そんな会計基準が違うから利益が違ってきましたと。それをベースに投資の意思決定ができるわけがないのです。これを、キャッシュ・フローに置き換えると、お金が一体増えたのか減ったのかということだけを考えることになりますから、これは、会計基準が違おうが、減価償却の処理の方法が違おうが、結果は全く同じになるのです。
このように、同じ土俵で企業とか、投資案件というのを並べる意味合いでキャッシュ・フローで評価をし直さないといけないということです。意外と、それが分かってない面倒くさいそのキャッシュ・フローで組み換えをやっていたりする方もいらっしゃいますので、面倒くさいからやめてしまおうと絶対考えては駄目です。先ほど申し上げたとおり、ここをはしょると、結果がめちゃくちゃな意思決定をすることになってしまいますので、理由をきちんと押さえて、キャッシュ・フローに置き直しをしていただきたいと思います。
早速、これはすごく簡単な例なのですけれども、回収期間法という方法の説明をしていきたいと思います。
どうやって見ていくのか。こちらがA案という案があって、投資額は100です。単位は何でもいいです。では、リアリティーを見つけるために100億円です。B案も同じように100億円の投資です。ただし、1年目以降、一体幾らもうかるのかなというもうかり方が違うのです。A案の場合は、10、20、30、40、50と徐々に増えていくというパターンに対して、B番は20、30、50、40、30と初めからややもうかって、3年後にキープを迎えて落ちていくという見込みが立っている。こういう案件の場合です。
回収期間法で計算すると、どうやって計算をするのかというと、この投資金額100億、何年目で回収するのですかという計算をしているだけなのです。
A案の場合は4年目で回収できます。B案は3年目です。20、30、50のキャッシュ・フローですから、20足す30は50です。3年目で100億を回収するという形になりますので、回収期間をベースにすると、B案のほうが有利ですねという計算の方法です。ものすごくシンプルですけれども、投資した資金を早めに回収するというのは、ビジネスの鉄則でもありますので、この感覚もぜひ忘れないでいただきたいなと思います。
この回収期間法のメリット、今やっているように計算は簡単なのです。大変簡単なのです。ですので、ざっくりと幾つかの投資案件があったときに、どれがいいか悪いかというところを判定することに適しています。
ただし、デメリットとして、回収した後に幾らもうかるかということを考えていないのです。3年間で回収したけれども、先ほどのB案というのは、だんだんもうからなくなってきているのです。A案は4年間かかりますけれども、5年目は結構もうかっているのです。その先のことを考えていないというデメリットがあります。
あとは、時間価値を考慮していないと。これは、DCF法のところでもかかわってくるのですけれども、来年100億円回収するのと、5年後に100億円回収するのと、どっちのほうが価値が大きいのですかという考え方があって、回収期間法を全く考えていません。その時間価値の率をいろいろと考えて、時間価値を考慮しようというのがDCF法というやり方になってきます。
同じ数字の例を使って、DCF法で評価した場合にどうなるのかと。これは、A案、B案、先ほどの回収期間法と同じ数字です。一応、割引率を10パーセント、成長率を5パーセントとして計算してくださいと書いてありますが、この割引率等については、後ほど説明をします。これで計算をしてみると、結果、A案は1058億ということです。1058億の価値がこのA案にはあるということなのです。B案の場合、どうなのかというと、657億の価値がありますという計算結果になります。
ここのターミナルバリューというところに630。前のページに戻ると、1050というとても大きな数字が入っていますので、これが何なのかというところまでご説明したいと思います。
ファイナンス、特にDCF法の考え方で結構ポピュラーなのですけれども、ターミナルバリューという考え方、計算の手法というのがあります。どういうことかというと、この説例で、A案を例にとってみると、5年目までしたかキャッシュ・フローが算定されていないのです。この先はどうなっているのだと。もちろん、この先もビジネスは続いていくわけなのです。なぜ、5年間にしたのかというと、通常、中期計画、あるいは将来のキャッシュ・フローを見積もろうと思ったときは、いいところ5年間ぐらいしか見込んでいないのです。それより先は、正直、まともに予測がつかないという会社がほとんどですので、いったん、5年目ぐらいで切れてしまうのです。実際のM&Aの検討する際にも、事業計画とか、中期計画などをベースに会社の価値を算定することが多いのですけれども、5年くらいしかないのです。ただ、会社の5年間で終わるということは、通常考えられないので、その後のキャッシュ・フローをどうやって考えるかという考え方の一つが、このターミナルバリューなのです。
どういうことかというと、5年目のキャッシュ・フローというのは、50億というふうに先ほど計算されました。翌年のキャッシュ・フローを見積もります。ここの成長率が5パーセントというふうに、先ほどの説例に書いてありましので、この50が、翌年には5パーセント成長すると。50×1.05で、52.5になるのですけれども四捨五入して53億にここではしてあります。
この金額を予測年度、翌年のキャッシュ・フロー、2番に書いてありますけれども、52.5という数字です。これ割る、後ほどご説明しますが、割引率の10パーセント引く成長率5パーセントという計算をすると、1050という計算結果になるのですが、これが、この先、5パーセントで、この53のキャッシュ・フローが永久に成長し続けた場合、今の価値に引き直すと、1050の価値がありますねという計算なのです。
この計算法にご興味、なぜ、こういう結果になるのかということに興味のある方というのは、ファイナンスの教科書などをひもといていただければ、たくさん説明がしてあるのですけれども、このターミナルバリューが怖いのは、これを何も考えずに採用していいのかという問題なのです。とてもではないですが、できないです。5年目まで結構精度の高いキャッシュ・フローの見込みをしておいて、それまでの価値は8しかないのです。このターミナルバリューで1050になって、合計が1058という形になりますから、ほとんどターミナルバリューの価値なのです。なので、ターミナルバリューという、どんと大きい数字が、仮に入っているDCFの計算方法の結果を見たとしたら、本当にこれでいいのかというふうに、まず疑問に思っていただきたいのです。
ですから専門家が言っているから、それでいいやということではなくて、このキャッシュ・フローが永久に成長し続けるというのはないではいですか普通は。永久ですよ。10年、20年だったら、まだいいのですけれども、そんなことは、普通は通常に考えるとあり得ないので、どんな前提で、このターミナルバリューというのは計算しているのですかというベーシックな質問をぜひ、会経営者としてはできるようになっておいていただきたいと思うのです。
では、これを介する方法としては、どういう方法があるのかというと、キャッシュ・フローをもう少し長く見積もればいいのです。そのビジネスに応じた。それこそ、例えば、ゲームのアプリを作っているような会社であれば、私だったら5年間ぐらいでけりをつけたいです。なぜならば、5年後どうなっているか分からないですから。もちろん、5年後に今のマーケティングの10倍、20倍になっているというふうにかけて、このターミナルバリューをバーンと計算をして会社を買収するという方法も、これはありだと思います。
一方で、極めて安定しているインフラ系、例えば、ガスとか電気とかの関係する会社などであれば、5年ということはないですね。20年とか、30年間ぐらい見ても、全然大丈夫なのではないかと思うのです。それは、その、皆さんが、おのおのの投資対象とするビジネスの特性を見て年数というのは、ある程度決めていけばいいのかなと思うのですけれども、そういうのが面倒くさいから、ターミナルバリューで以上終了というやり方は、とても危険ですので、気を付けていただきたいなと思うのです。
このターミナルバリューの最後に、もう一つだけ申し上げたいのは、皆さんの理解が混乱するので、この表ではあえて書いていないのですが、このターミナルバリューの1050という価値は、この6年目での価値なのです。ですから、実際に、このDCF法で計算する際には、ここからまた、現在の価値に割引し直さないといけない。ですから、これは、結構減っていく。実際はもう少し減るのですけれども、その点については、一応念のため、付け加えさせていただきたいと思います。
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