プライベートクレジットは日本で広がるのか 問われるのは、貸し手の資金力と、見えにくくなるリスク

プライベートクレジットは日本で広がるのか
問われるのは、貸し手の資金力と、見えにくくなるリスク
米大手投資ファンドのアポロ・グローバル・マネジメントが、日本企業向けのプライベートクレジットを拡大しようとしています。
プライベートクレジットとは、銀行や社債市場を通じるのではなく、ファンドなどが企業に直接融資する仕組みです。アポロのジム・ゼルター社長は、銀行融資や社債だけではまかないきれない資金需要が日本企業にあると述べています。
背景にあるのは、企業の資金需要の変化です。AI関連のデータセンターや送電網など、デジタルインフラへの投資には巨額の資金が必要です。投資額が大きく、回収まで長い時間がかかる事業では、銀行融資だけで必要な資金をすべてまかなうのが難しい場合があります。社債市場も、企業の信用力や発行条件によって使いやすさが異なります。
プライベートクレジットは、こうした資金需要に対し、融資期間や返済条件を個別に設計できる資金調達手段として広がっています。米国では、金融危機後の規制強化で銀行が融資しにくくなった案件を、ファンドが引き受けて市場を拡大しました。最近は、信用力の高い企業による大型の資金需要も増えているといいます。
日系ファンドにとっての壁
日本のファンドも、この市場に参入したいはずです。企業の資金需要があり、貸し手には融資の機会があります。しかし、融資を拡大するには、長期にわたって資金を出し、貸し倒れのリスクも引き受けられる大きな資金が必要です。
そこで問われるのが、日系ファンドにそれだけのリスクマネーを集められるかという点です。融資案件を見つける力だけでは足りません。融資先の返済が滞った場合にも耐えられる資本と、長い期間、資金を預けてもらえる投資家が必要です。日本のファンドが市場の拡大を望んでも、資金の出し手を十分に確保できなければ、事業の規模は限られます。
資金を必要とする企業はどこか
一方、借り手の側に目を向けると、銀行融資や社債だけでは十分な資金を確保しにくい企業が候補になります。高い金利で資金を調達しているソフトバンクグループや楽天グループのような企業は、プライベートクレジットの資金需要と結びつく可能性があります。
ただし、これは今後の借り手候補についての見立てであり、両社がアポロなどから融資を受けると決まっているわけではありません。また、プライベートクレジットは常に銀行融資や社債より高コストとも限りません。借り手の信用力、融資期間、担保、返済条件、資金を確保できる確実性によって、調達コストは変わります。
それでも、通常の調達手段より高い金利を払って資金を求める企業がいるなら、貸し手には高い利回りの機会が生まれます。同時に、高い金利は、借り手が資金を必要としている事情や、貸し手が負うリスクの大きさを示している場合があります。利回りだけを見て融資の安全性を判断することはできません。
リスクは最終的な出資者に届く
もう一つ、見落とせないのが、資金を出す人と、最終的に融資を受ける企業との距離です。
資金の流れは、一般投資家や年金・保険会社などの出資者からファンドへ、そしてファンドから企業やプロジェクトへとつながります。出資者がファンドに資金を出していても、最終的にどの企業や事業に、どのような条件で融資されているのかを十分に把握できないことがあります。
融資が焦げ付けば、ファンドに損失が生じ、その損失は最終的に出資者に及びます。ファンド・オブ・ファンズのように、複数のファンドを通じて一般投資家に商品が届く形になれば、資金の行き先や、誰が損失を負うのかがさらに見えにくくなるおそれがあります。
これは、サブプライム危機と同じ構造だと断定できる話ではありません。ただし、融資のリスクが複雑な商品に組み込まれ、最終的な出資者が中身を理解しないまま資金を出す状況が広がれば、問題が起きたときに損失の所在や規模が見えにくくなる可能性があります。
資金が集まることと、安全に貸せることは別
アポロが指摘するように、日本企業に新たな資金需要があることは確かでしょう。プライベートクレジットは、銀行や社債市場だけでは満たせない需要を補う役割を担えます。日系ファンドにとっても、成長の余地がある市場です。
しかし、市場の成長を決めるのは資金需要だけではありません。ファンドが必要なリスクマネーを集められるか。融資先の返済原資を適切に見極められるか。そして、損失が出たときに誰が負担するのかを、出資者が理解できる形で示せるか。
AI関連インフラへの投資が拡大していることと、個々の融資が安全であることは別の話です。見るべきなのは融資額や利回りの大きさだけではありません。**誰が資金を出し、誰に貸し、返済ができなくなったとき誰が損をするのか。**そこまで見て初めて、プライベートクレジットのリスクを判断できます。
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