M&Aによる起業

「起業」の2つのパターン

 起業というのは、基本はゼロスタートです。会社に勤めた後に独立してやっていくか、初めから会社には勤めずにビジネスを始めるか、さまざまなパターンがあると思いますが、どちらにしてもゼロスタートです。初めは何もないところから始めなければなりません。

 では、ゼロスタートのリスクをどのように取り除いていくのでしょうか。独立後にどのようにして食べていくのでしょうか。明日からどのようにして食べていくでしょうか。非常に大きなリスクを背負ってゼロでスタートした以上、運がよければやはり上場したいと思うものです。しかし、先ほど言いましたように、上場することが本当に得なのでしょうか。非常にうまく物事が進んで日本のトップ22に入ったとして、それが本当に得なのでしょうか。そこまで考えておかなければなりません。ただし、うまくいけば、基本的には成果は全て自分のものです。

 ここに起業のパターンを二つ書きました。真ん中から説明します。M&Aアドバイザーとして起業するという選択肢もあると思います。M&Aをするコンサルタントとして起業していくという選択肢です。もしかすると、皆さんはこの選択肢について今まであまり考えたことがなかったかもしれませんが、これからこの市場を広げていかなければなりません。この市場を広げていこうということで作ったのがこの日本M&Aアドバイザー協会なので、ぜひ一つの選択肢として考えていただきたいと思います。M&Aのアドバイザーをしている人はたくさん居ますが、M&Aの小規模な案件を積極的にやっていく人はまだまだ少ないので、まだまだこれからここがボリュームゾーンになっていくだろうと思っています。

 ただし、もちろんそう簡単に案件が決まるわけではありません。次から次へと、今月これで300万、来月は400万、その次は少し小さくなって200万というように簡単にはいきません。

 起業してコンサルタントとしてやっていけば誰でもそうですが、訴訟を起こされる、訴えられるリスクもあります。これは別にM&Aをやっていなくても同じです。

 一番下です。M&Aと起業といえば、これが大きな選択肢になってくると思いますが、既存のビジネスを使って起業していこうというものです。自分でゼロから始めるのではなく、最初に既にあるビジネスを買って起業するという選択肢です。これができるのであれば、ゼロベースではないことになります。例えばそれが飲食店であれば、既に顧客もありますし、かなり質が悪いかもしれませんが、店や設備も一応あることになります。そして、そこからビジネスをスタートすることができるので、ゼロスタートではありません。ただし、ゼロスタートなのにどこからそのお金を持ってくるのかという問題はあります。これは大きな問題です。この店舗を3000万円で譲りますと言われたときに、3000万円あれば明日にでもM&Aをして、すぐに商売を始めることができるのですが、その3000万をどう準備するかということが大きな問題です。

 また、これは既存ビジネスをM&Aして起業するときの問題だけではないのですが、うまくいかなかった場合にどうするのかという問題もあります。自分はその後にまたM&Aをしてそのビジネスから幕を引くのか、さらにそこから上場していくのか、という問題があります。お金が掛かっているのですから、イグジットを考えておかなければなりません。3000万を払ったのですから、毎年もうけて回収していくのは当然ですが、その先にどういう方法で最初に投資した3000万を回収するのかをよく考えておかなければM&Aはできません。

 もう一つ、一番大きな問題はどのようにしてM&Aをするのかということです。選択肢としてはありますが、皆さんも考えてみてください。皆さんが今やっているビジネスで約10年後に独立したとします。それから20年間ほど何とかそのビジネスをやってきました。65歳です。従業員も4、5人居ます。お客さんも10社から20社いらっしゃいます。このような状況の会社を譲り渡すとします。譲り渡す相手は誰でもいいわけではありません。やはり、従業員を守ってくれそうな人、今までの取引関係を壊さないであろう人に引き継いでほしいはずです。起業しようと思うのであれば、まず自分がそのような人にならなければなりません。つまり企業を譲ってくれそうな人です。そうでなければライバルに持っていかれてしまいます。このどのようにM&Aを行うかということも現実問題としてはかなり大きな問題になってきます。

 では、どれも厳しいではないかという話になるのですが、結論は先ほど言いましたようにどれも大変なのです。これを選べばとても楽で、かけた労力と比較すると相当もうかるという方法はありません。皆さんもそう思われませんか。もしもそのような方法を知っていれば、僕はここでそれを紹介するのではなく自分でそれをやって、隠してしまいます。やはりそのような方法はないのです。

 ただ、選択肢は広がったはずです。これしか考えていないのです。もし独立しようと思っているとして、普通はゼロからスタートしてやっていこうということしか頭に浮かばないと思います。しかし実際はそれだけではありません。会社を買って起業するという選択肢もあるのです。では、スタート時にそれができないのであれば、売ってほしいと思っている会社のオーナーに認められるほどの実績を作って、お金も稼ぎ、それから、何とか譲ってほしいと思っている会社を3年あるいは5年たった後に買わせてもらい、ビジネスを大きくしていってもいいわけです。この組み合わせはいかようにでもできます。選択肢を一つでも多く持ってほしいというのが、この表でお伝えしたかったことです。これが絶対にいいという方法というものはないと思います。先ほどお話しした、しばらく修行をしてから会社を買わせてもらうといういい例があります。ジーリーという中国の自動車メーカーが3年ほど前にボルボを買いました。スウェーデンのボルボです。頑丈な車のボルボを買いました。中国は今バブルでお金がいくらでもあるので、その勢いで買えるところを買ったのではないか、中国マネーは恐ろしいというような感覚でとらえられていたようですが、実はそうではないそうです。20~30年前からボルボを買いたいと思っていたそうです。しかし、20~30年前の中国の自動車メーカーがボルボを買えるわけがありません。それで自分のところで業績を残し、経営者としての実績も積み、自分の会社の業績がずっとよくなり、一方でボルボの業績が悪くなったタイミングを狙って買収をしたのです。

 ですから、初めからこれができれば最もいいのですが、もしできないのであれば、そのような選択肢も考えてビジネスを進めていくことも非常に大切だと思います。

 また、思い付きで行ったM&Aはあまりうまくいかないケースが多いです。外から見ると思い付きで買ったように見えるとしても、実態は分かりません。少なくともボルボの件の実態は何十年も前から、絶対にボルボが欲しい、ボルボが買えるような会社になってやるという目標を持ちつつ、しつこくビジネスをやり続けて買ったという例です。

本誌は、M&Aを売り手、買い手、アドバイザーが三方良し、となるのが当たり前の世界の実現を目指しています。そのためには当事者が正しい情報を得て、安心して相談のできる場が必要です。その実現に向けて本誌は、日本M&Aアドバイザー協会で、以下のサービスやセミナーを提供しております。
                                                                                                                                                     
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