M&A

オリンパス関連 アルティス社の株価算定書に見るvaluationの問題点

もう1年以上前の話になるが、オリンパスが買収、清算中のアルティス社の株価算定書がファクタ社によって、開示された。資料を整理する過程でこの資料がでてきたので、今更ではあるが、自分の意見をまとめておくことにしたい。

まず、算定書そのものは以下にある。

○ファクタHP
http://facta.co.jp/blog/archives/images/altis_Japanese.pdf

この算定書については、以下のブログの解説が参考になるので、内容について確認されたい方は、ご参考にされたい。

○オリンパスのアルティス買収価格がスゴイ?
http://ameblo.jp/aizutaro/entry-11054646241.html

これについてはいくつも解説があるが、鈴木一功先生のダイヤモンドオンラインに今後に向けての提案があるので、以下で確認しておきたい。

○緊急提言・オリンパス事件からの教訓:M&A取引価格の根拠を開示する仕組みを確立せよ 
http://diamond.jp/articles/-/15031
***以下、引用***

1.株式価値算定書のサマリーの開示対象を、MBOに関する株式公開買付のみから、東京証券取引所が算定書の添付を要請している全ての取引に拡大する。

2.開示するサマリーには、算定根拠となった業績予測(最低限、今後5年間程度の売上高と営業利益の予測)を表示する。

3.株式算定書の作成者の属性、過去に算定書を作成した案件等を同時に開示する。
  

4.利益相反の可能性が高いMBO取引等に関しては、より算定人の責任が明確なフェアネス・オピニオンの取得を義務づける。  
***引用、ここまで*** 
これらは重要な示唆である。M&Aを業務とし、株価算定の経験もある小職にとっても非常に重要な指摘である。

ここでは、この鈴木先生のご意見を前提として、私の意見を述べてみたい。

第一に、この資料は開示されることを禁止しているので、作成者の井坂会計士はそもそも開示されることを前提としていないことを忘れてはいけない。それはこのレポートの冒頭にも明記されている。

そして、valuation、特にDCF法を採用する場合の問題点がこのレポートにも同様にあらわれている。

1つは将来キャッシュ・フローの算定。もう1つが割引率である。

将来キャッシュ・フローについては鈴木先生も指摘のように、企業から提示された数値を無検証のまま使用している。これは会計士が株価算定をする際によく採られる手法である。理由としては、以下の3つが考えられる。

  1. 将来キャッシュ・フローが?であることが会計士もわかっているので、責任逃れをしたい。 
  2. 時間的、報酬の制約でそこまで検証できない。
  3. そもそも会計士側に将来キャッシュ・フローを評価できる能力がない。

このうち実状は、3であろう。しかし、これは会計士だけの問題でなく、外部のコンサルタントにとっても難しい。将来のシナジー効果についての評価を公表するのは将来、不毛な結果責任が問われる可能性もある。そこで、ここは株価算定をする会計士やコンサルタントに責任をなすりつけるのではなく、企業側で株価算定の基礎となる事業計画、キャッシュ・フローを開示してしっかり責任を採るべきである。

さらに、ここでは継続価値を算定する際に他社事例の倍率を用いている。しかし、これもオリンパスが株価算定の前提となる事業計画をしっかりともっていれば、こんな取扱いの必要もなかったはずだ。ましてや継続価値は株価算定結果の大半を占めるため、より慎重に扱う必要がある。無理して継続価値に理屈をつけるよりは、きっちりと株価算定にあたって見積る事業計画、将来キャッシュ・フローの期間をfixすべきである。これはもちろんM&Aを実施する企業で実行すべき課題である。

もう1点、割引率である。本レポートではベンチャー・キャピタルで一般的に求められているリターンを株主資本コストとして割引率を算定している。ベンチャー・キャピタルは一般的にリスクの高い投資を行うため、そのリターンは高くなる。それは将来キャッシュ・イン・フローにリスクがあるからだ。

しかし、株価算定におけるキャッシュ・フローは諸々の前提をおきつつも、売り手、買い手それぞれでこれでいく、というfixのキャッシュ・フローでなければならない。ここに自信がないから、割引率を高めに設定しておこう、という間違いである。ここでは誤魔化さず、企業における投資の最低ハードルレートを割引率として設定すべきだ。CAPMでも最低限、株主に対して負担すべきコストを過去の実績値から推測しているわけだ。

そしてこの2点の算定根拠と責任が明確化すれば、このような問題はおきないはずだ。誰かに責任を押し付けるのではなく、前向きな問題解決に向けて、前述の鈴木先生のご意見、私の意見も参考にしていただきたい。
 

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