金利上昇で苦しくなるのは、借り手だけではない

金利上昇で苦しくなるのは、借り手だけではない
企業が社債を発行する際、国債利回りに信用リスク分のスプレッドを上乗せした金利を負担します。国債利回りが上がり、社債スプレッドも広がれば、企業の資金調達コストは二重に上がります。
最近の日本の社債市場では、スプレッドが15年ぶりの水準に達したと報じられました。フランスでは財政や政治への懸念から国債利回りが上昇し、外国人投資家の動向も注目されています。金利上昇は、借り手にとって資金調達の条件が厳しくなることを意味します。
しかし、負担を負うのは借り手だけではありません。金融機関も、低金利の時期に購入した債券を大量に保有しています。金利が上がれば、固定金利債券の市場価格は下がります。さらに、預金金利など調達コストが上昇すれば、資産の利回りが低いまま調達コストだけが先に上がり、利ざやも縮みます。
ここで問題になるのは、金融機関の経済的な損失と、会計上の損益が必ずしも一致しないことです。IFRS 9でも、金融資産は保有目的や契約上のキャッシュフローの性質に応じて、償却原価、公正価値の変動をその他の包括利益に計上する方法、純損益に計上する方法に分かれます。すべての債券が毎期の損益に時価変動として表れるわけではありません。
満期まで保有し、発行体に信用不安がなければ、債券の時価が下がっても、満期時に元本が返済される可能性はあります。その意味で、評価損が直ちに現金の損失になるとは限りません。しかし、その債券を保有し続ける間、新たな高利回りの投資機会を逃します。また、預金流出などで資金が必要になり、満期前に売却せざるを得なくなれば、評価損が実現損になります。
したがって、金融機関の健全性を当期利益だけで判断するのは不十分です。資産と負債の満期や金利の変わり方にどれだけ差があるのか、その差が利ざやや資金繰りにどう影響するのか。損失がPLに計上されたかどうかとは別に、バランスシート全体の経済価値を見なければなりません。
金利変動そのものや、借換えが必要になる時期を経営者が自由に決めることはできません。できるのは、満期を分散する、固定金利と変動金利の構成を調整する、必要に応じてヘッジを行うなど、変化の影響を小さくすることです。それでも、急な金利上昇の影響を完全に避けることはできません。
企業側も、負債からエクイティへ簡単に移れるわけではありません。株式は返済期限のある資金ではありませんが、投資家が求めるリターンは高く、既存株主の持分も希薄化します。売掛金や在庫を回す運転資金まで株式で賄うのは、資金効率の面で現実的とは限りません。長期的な投資や財務基盤の強化にはエクイティが有効でも、資金の性質に応じた調達手段は必要です。
金利が上がること自体は、インフレや信用リスク、需給を反映した市場価格です。しかし、その水準が長く続き、採算の合う企業投資まで止まり、金融機関のバランスシートも弱めるなら、金利は実体経済の収益力に対して高すぎる可能性があります。
金利上昇の影響は、借り手の調達コストだけを見てもつかめません。企業の投資採算、金融機関の資産と負債、そして会計上の損益認識を一体で見る必要があります。金利が上がったとき、誰のバランスシートに、どのタイミングで負担が現れるのか。そこを見誤ると、損失が表面化した時点で初めて問題に気づくことになります。
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