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ニデックの意見不表明が示す、監査の前提の揺らぎ

ニデックの意見不表明が示す、監査の前提の揺らぎ

2026年10月13日付の日本経済新聞は、ニデックの2026年3月期有価証券報告書に対する意見不表明について、証券取引等監視委員会の元委員で公認会計士の浜田康氏に聞いています。浜田氏は、監査意見が不表明となったこと自体はやむを得ないとしながら、PwCが会社を指導しきれなかったことにも問題があると指摘しました。

しかし、この問題を「監査人が会社を十分に指導できたか」という論点で捉えると、監査の前提を見誤ります。

経営者の誠実性は、監査の出発点です

監査は、経営者から提供される情報や説明をもとに、財務諸表が適正に作成されているかを検証する仕事です。内部統制を評価し、帳簿や証憑を確かめ、経営者の説明と整合する証拠を集めます。

その土台にあるのが、経営者の誠実性です。経営者が正確な情報を提供し、問題を隠さず、財務報告に責任を持つという前提がなければ、内部統制の評価も、会社から得た説明や資料の信頼性の判断も難しくなります。

これは、監査人が経営者を無条件に信頼すべきだという意味ではありません。疑問があれば、監査人は検証の範囲を広げ、追加の手続を行い、より多くの監査証拠を集めます。監査実務は、そのようにして経営者の説明を確かめながら、監査意見を形成してきました。

永守氏が退いた後も、疑義が残った

今回の監査報告書では、不適切な会計処理に関与した役職員が、現在も責任ある立場を担っていることが意見不表明の理由として記載されました。また、減損損失や過年度の修正再表示について、妥当性を判断するための十分な監査証拠を得られなかったことも示されています。

ここで問われているのは、永守氏個人の誠実性だけではありません。永守氏が経営の第一線を退いた後も、財務報告に関与する人員や体制が変わらず、会社として信頼できる情報を提供できるのかが疑われているのです。

経営者の誠実性に疑義がある場合、監査人は監査証拠を集めることで、その疑義をどこまで解消できるのでしょうか。帳簿や資料を追加で調べても、その資料を作成・管理する組織や、監査人に説明する責任者への信頼が揺らいでいるなら、監査証拠の十分性や信頼性そのものが問題になります。

意見不表明は、監査の限界を示した

監査人は、会社の人事や組織を直接変える権限を持っていません。改善を実行する責任は会社にあります。監査人が会社に改善を求めることはあっても、会社の経営に代わって信頼性を回復させることはできません。

今回の意見不表明は、PwCが会社を指導しきれなかった結果と単純に整理するべきではありません。監査の前提である経営者の誠実性に疑義が残り、追加の監査手続を尽くしても、財務諸表の適正性を判断するための証拠が得られなかった。その結果として、意見を表明できなかったと見るべきです。

日本経済新聞の記事で浜田氏は、監査人が会社を指導しきれなかった点を問題として挙げています。しかし、会社の信頼性を回復する責任まで監査人に負わせると、経営者と監査人の責任の境界が曖昧になります。監査人に求められるのは、会社を立て直すことではなく、必要な監査証拠を得られたかを判断し、その結果を監査意見として示すことです。

ニデックが信頼を取り戻すには、改善計画を実行するだけでなく、財務報告を担う経営体制そのものが信頼に足ることを示さなければなりません。監査人がどれだけ証拠を集めても、その前提となる会社の誠実性が確認できないなら、監査意見を出せないことがある。今回の意見不表明は、その厳しい現実を示しています。

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