AI時代に必要なのは「実行OS」である

AI時代に必要なのは「実行OS」である
生成AIを使うようになり、文章を書く速度が大きく上がりました。
M&Aファイナンス新聞についても、ニュースから論点を抽出し、自分の考えを整理して、短時間でシャープな文章にできるようになりました。以前なら数十分かかっていた作業が、数分で終わることもあります。
これは間違いなく大きな進歩です。
しかし、文章をどれだけ書いても、それだけで世の中が変わるわけではありません。
企業の問題点を明確にしても、その企業が変わるとは限りません。社会制度の課題を整理しても、制度が改正されるとは限りません。経営について優れた提案書を作っても、誰も実行しなければ何も起きません。
AIによって「考えること」と「文章にすること」のコストは大幅に下がりました。一方で、「決めること」と「実行すること」の難しさは、ほとんど変わっていません。
むしろ、きれいな文章や資料を簡単に作れるようになったことで、考えたことを実行したと錯覚する危険は高まっています。
判断OSだけでは世の中は変わらない
私はこれまで、判断OSという考え方を整理してきました。
目的を明確にし、制約条件を確認し、複数の選択肢を比較し、成功のExitを定義したうえで、最終的な判断を行うための思考構造です。
判断OSは重要です。目的が曖昧なまま最適化を進めても、正しい答えには到達できません。また、成功のExitを定義しなければ、いつまでも同じ活動を続けることになります。
しかし、正しい判断ができても、実行されなければ現実は変わりません。
そこで、判断OSの次に「実行OS」が必要になります。
実行OSとは何か
実行OSとは、判断を現実の行動に変えるための仕組みです。
難しい理論ではありません。少なくとも、次のことを明確にする必要があります。
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誰が実行するのか
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最初に何をするのか
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いつまでに行うのか
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何が起きれば前進したと判断するのか
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いつ継続、修正、撤退を判断するのか
「検討します」「推進します」「取り組みます」という表現だけでは、実行計画にはなりません。実行主体、最初の行動、期限がなければ、実際には何も決まっていないのと同じです。
また、実行OSは、決めたことを最後までやり抜くためだけの仕組みではありません。
実行してみれば、当初の前提が間違っていたこともわかります。その場合には、計画を修正したり、撤退したりする必要があります。実行結果を確認し、判断OSそのものを書き換えるところまでが実行OSです。
すべての考えを実行する必要はない
もちろん、考えたことをすべて実行に移す必要はありません。
M&Aファイナンス新聞では、企業経営、M&A、会計、政治、国際情勢など、私自身が当事者ではないテーマも扱います。記事で示した考えを、私が直接実行できるわけではありません。
それでも、考えを言語化することには意味があります。事実と意見を分け、問題の構造を明らかにし、当事者が持つ選択肢を示すことは、判断の材料になるからです。
問題は、発信したことと、実行したことを混同することです。
記事を書くことは発信です。提案書を作ることは提案です。会議で賛成することは意思表示です。いずれも実行そのものではありません。
自分が責任を持つ仕事や組織については、考えを示すだけで終わらず、誰が、何を、いつまでに行うかまで決める必要があります。
反対に、実行しないと決めることも立派な判断です。ただし、その場合には、なぜ実行しないのかを明確にしなければなりません。判断を保留する場合にも、何が判明したら再判断するのかを決めておく必要があります。
AI時代に広がるのは実行力の差である
AIの普及によって、文章力や資料作成能力の差は縮小していくでしょう。一定水準の分析や提案であれば、多くの人が短時間で作れるようになります。
その一方で、実行力の差はむしろ広がる可能性があります。
目的を決める。何かを捨てる。責任者を決める。期限を設定する。関係者を説得する。資源を配分する。結果を確認し、必要なら撤退する。
これらは、AIが提案することはできても、最後は人間や組織が引き受けなければなりません。
AIは考えることを支援してくれます。しかし、AIが責任を負ってくれるわけではありません。
これから重要になるのは、AIを使って優れた文章を書くことだけではありません。AIによって生まれた考えの中から、何を実行し、何を実行しないかを判断し、実行した結果から次の判断へ進むことです。
AI時代には、判断OSとともに実行OSが必要です。
考えを言葉にするだけでは、世の中は変わりません。
誰かが決め、誰かが動き、結果を引き受けたときに、初めて現実が変わります。
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