経営者のための実践ファイナンス

企業買収の際の考え方

 では、具体的に企業買収編となっていますけれども、基本的には設備投資と同じ考え方でいいのですが、将来のキャッシュ・フローを算定するときの考え方というのが、PLとか事業計画をベースにフリー・キャッシュ・フローに修正していくというプロセスを経ますので、手順を追って確認していきたいと思います。

 先ほど見ていただいたワークシートが、必ずしもこの方向でやる必要はないんですけれども、大体このフォーマットになっています。上の赤の枠で囲った部分というのが、事業計画です。営業利益までを出した事業計画というのを上に置いています。これを、この先、キャッシュ・フローに置き換えていかなければいけないです。ただ、この数字が何より肝要ですので、この数字をどれだけ説得力のあるものにしていくのか、あるいは前提条件をしっかり置いていけるのかというところが、このDCFのポイント、あるいは会社価値の評価のポイントだと思っていただいて結構ですので、そこを、可能な限り自信が持てるように、相手を納得させるだけの根拠を持って作っていただくというのが肝要です。後は作業ですから。

 その作業の部分なんですけれども、1段下がって減価償却費です。これを足していくということです。減価償却費というのは、非現金支出項目というふうにいってPL上の費用で分かるのだけれども、現金が出ていませんという項目の代表例ですので、これを加算していくということになります。

 PLを見ていった場合に、特にメーカーですと、原価に減価償却費が含まれている可能性があります。販売費に一般管理費の減価償却費だけではなくて、原価に入っている可能性がありますので、どこかの上場会社の評価をしようという場合には、そこの数字も忘れないように拾っていただきたいと思います。それを拾うためには、上場会社のキャッシュ・フロー計算書には、その減価償却トータルが載っていますので、その数字を参考にしてください。そこから、引っぱってくるようにしていただきたいと思います。

 次、この営業利益に減価償却費等を加算して出てきたものが(####@00:02:07)ということもありますけれども、取りあえずここでは、いったんそれを置いておいて、次の調整項目の話をします。

 法人税の支払いの話はしました。税率が仮に40パーセントとして、今税率は少し下がっていますけれども、そのときの税率、その国の税率を使うようにしてください。これは、日本を前提にしていますけれども、もちろんもっと税率の安い国であれば、その国の税率を使って計算するということは、言うまでもないことです。 

 だから、実際の税金計算というのは、営業利益に税率を掛けて計算するものではなくて、結構、細かい調整過程を経るのですけれども、そもそも将来の営業利益自体が、やや、ふわふわとしてるというか、確定的なものではないので、通常はそこで無理くり、税務の調整をしたりしないで計算をします。ただ、税務の調整ができる明らかに分かっているものに関しては、ここで調整をして計算をしていただいたほうがベターです。

 次に設備投資です。設備投資の金額、これは、将来の予定も含めてなのですけれども、減産をしていきます。この例で言うと、減価償却費と同じ数字が入っているのです。これは、どういうことなのかというと、ベンチャーでは、ほとんどありませんけれども、大手企業でも成熟産業の場合というのは、減価償却とほぼ同額の金額しか設備投資しない会社があるのです。これは、大変安全な設備投資なのですけれども、特に、明確な投資計画がなくて、ここ数年間減価償却費とほぼ同額の設備投資をしてないような成熟作業の場合は、将来的にも減価償却と同額の設備投資として見積もるケースがあるというふうに思ってください。もちろん、これから伸びていかなければいけないベンチャーであれば、当然さまざまな意味でも投資が必要になってくるので、減価償却と同額というよりはもっともっと、投資計画は立てていかないと売り上げが上がっていかないと思いますので、それは、ケース・バイ・ケースで考えていただきたいと。一応、ここで、なぜ減価償却費と同じ金額が入っているのかというところはご説明しておきます。

 先ほど来もご説明をしている運転資本の増減ですけれども、これは、増加しているのがマイナスです。運転資本が増加していればキャッシュ・フロー上はマイナスです。運転資本が減少していれば、キャッシュ・フローはプラスになります。在庫が増えると資金的に厳しくなるというのは、経営者の方であれば、イメージできると思うのですけれども、そこをイメージしていただけるといいかなと思います。在庫の増加イコール運転資本の増加。一次的に資金が厳しくなる。だから、マイナスになるのだというイメージを持っていただけるといいのかなと思うのです。

 それと、計算問題としてありがちなのが、ここに運転資本の金額を入れてしまう方というのが結構いらっしゃるのです。運転資本の金額はものすごく大きいですから、そうすると、毎年フリー・キャッシュ・フローがほとんどないという、ワークシートができたりすることがあるので、前の年から、幾ら運転資本が増えたのか減ったのかということを意味していますので、その点には注意してください。

 そういった調整項目というのを加減算していくと、フリー・キャッシュ・フローというのが出てきます。それに、現価係数を掛けてこの年の割引現在価値というのを出してきます。この例で言うと、割引率が8パーセントで設定しています。1年目のこの現価係数というのが、1足す8パーセント。1・08です。これを計算すると0.9259。この数字になります。2年目は1足す8パーセント。1足す1.08の二乗を1で割った数字になっています。それが、0.5873。同じように、ここは3乗、4乗、5乗という形になっていきますので、確認をしておいてください。

 現在価値を出すときには、おのおのの年数の予測のキャッシュ・フローに、これ現在価値係数を掛けて28704。2年目は32550の予測のフリー・キャッシュ・フローに、その2年後の現在価値係数である0.58573というのを掛けて27906と、以下同様に計算をしていきます。 

 ここの欄は、ターミナルバリューなので、次のページをご説明しますけれども、仮に5年目までの現在価値を計算しようと思ったら、ここの一番下の欄の合計値が現在価値となります。28704から25645を全部足した数字が、現在価値ということになります。それが、将来一体幾ら稼ぐのかという想定をして、それを、今の価値に割引計算をした結果だと思っていただいて結構です。

 この欄です。割引現在価値の合計というのは、先ほど、ターミナルバリューの部分を考慮してお話をしましたけれども、ターミナルバリューを採用するのであれば、この一番下の欄の494559というところまで、全部足した合計というのが、割引現在価値だということです。

 ちなみにターミナルバリューについての説明ですけれども、ここの39565割る割引率です。成長率は、この問題を考慮しませんので、39565割る8パーセント。これが、494559ということになります。

 繰り返し、このビデオではご説明していますけれども、すごく大きいのです。ここまで、28から25ですから、大体12万とか13万くらいの数字が、50万くらい、ここで一気に加算されるので、本当にこんな数字を使っていいのか悪いのかというところは、経営者として、ぜひ一度判断をしていただきたいと思います。

 ここまでの、今の一番下の欄の割引現在価値の合計が630323ということになりますが、これは、先ほど説明したとおり事業価値に非事業用の資産の価値、現、預金であったりですとか、非営業用の資産の価値を足して企業価値を出します。有利子負債を、ここでは3億円あるので3億円引いた価値が株主価値、1株当たりの株価を出したければ、この株主価値総額を発行済み株式数で割ればいいと。結果的に3万3000円と計算ができるということです。

 フリー・キャッシュ・フローの算定は、先ほどご説明したとおりです。営業利益を通常中期計画では出してきますので、ここから税額の控除をしてきましょうということと、非現金支出項目である減価償却を足しましょうと。お金が出ていく設備投資の金額のマイナス控除をして、運転資金が増えていけば、一時的に最高額が資金的に厳しくなるわけなので、その部分を考慮していくということになります。

 この下には、法人税と支払額の考慮の意味合いと、減価償却プラスの意味合いというのは、あらためて記載をしています。同様に、このページでは、何度かこのビデオでもご説明した運転資本の増減というところについて説明を加えてあります。

 以上です。ファイナンスというのは、計算自体は確かに難しいのですけれども、今エクセルがかなり発展しますし、いろいろは式を組み込んだワークシートなども出回っていますから、式が間違ってないことを確認すれば、計算自体はそんなに難しくなくできます。ただし、その前提となっているのは、全て、将来キャッシュ・フローなのです。将来、一体キャッシュ・フロー幾ら稼ぐのかというところがベースになっていますので、これ自体は、経営者がきちんと見極めをしていかなければいけない。もし、ベンチャーキャピタルとか、他の投資家からお金を集めようと思えば、どれだけ、その事業計画の納得性というか、それを上げていくかどうかというところが、大きなポイントになってきます。

 ただ、一方、めちゃくちゃな割引率などをオファーされるようなことがあると思いますので、例えば、割引率が50パーセントとか、60パーセントとか100パーセントとかというようなワークシートを見たら、なぜ、そんな割引率をうちで提供しなければいけないのかという素朴な疑問を出していただきたいのです。では、彼らは一体、彼らの資金提供者である株主なのか、ファンドであれば、投資家がいるのですけれども、彼は一体どれだけの利回りを出さなければいけないのかというところを、当然、彼らは、それに利益を上乗せしていきますので、それをベースに考えて、一体どれくらいの割引率を設定するのか妥当なのかというようなところです。ここをきちんと整理をしていっていただくということも必要になってくるのかと思います。上場会社ではなくファンドであれば、上場会社の投資よりも、リスクマネーですから、ある程度、出資者に対するリスクプレームというのは、当然高くなります。ただ、それが何パーセントなのかというところはケース・バイ・ケースで考えていくしかない。皆さんが考えていただければいいと思いますし、皆さん1人で考えられない場合というのは、きちんとそういったことアドバイスできる、アドバイザーを見つけて、一緒に考えていかれるということをお勧めしたいなと思います。

 では、これで、経営者のためのファイナンス入門講座を終了とさせていただきます。

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