経営者のための実践ファイナンス

ファイナンスでよく使われるスキームとは?

 続いて、スキームについての確認をしていきます。M&A等で使われるスキームというのは幾つかあるんですけれども、この表には、株式移譲と株式交換、増資、事業譲渡があって、会社分割、業務提携、借入金、社債発行、これ以外にもあるのですけれども、この後、代表的なスキームというのを、図を使って簡単にご説明をしていきたいと思っています。

 まず株式譲渡なのですけれども、これが一番オーソドックスな形です。何も前提条件を置かずに、M&Aと言えば、ほぼこの株式譲渡だと思います。ここでの用語は、少し慣れていただくとありがたいと思うのですけれども、売り手と買い手と対象会社という言葉使いをします。買い手というのが、一番分かりやすいかなと思うのですけれども、その会社を買おうと思っている方です。対象会社と売り手は、少し混同しがちなのですけれども、対象会社というのは、M&Aの対象となる会社です。

 例えば、ソフトバンクがイー・アクセスを買収していますが、そのときの買い手はソフトバンクです。ソフトバンクが買おうと思っているわけですから。そのM&Aの対象会社はどこなのかというと、それがイー・アクセスということになります。では、ソフトバンクがイー・アクセスを買収したときの売り手というのは、一体誰になるのかという話なのですが、それは当時のイー・アクセスの株主です。取引自体は、イー・アクセスの株主とソフトバンクの中で行われるというのがこの株主譲渡です。

 売り手と買い手の間ではどのような取引が行われるのかと言いますと、売り手は買い手に対して対象会社イー・アクセスの株式を渡します。買い手であるソフトバンクは、売り手であるイー・アクセスの株主に対してその対価の支払いをすると、これで終了です。対象会社イー・アクセスから見ると、売り手はもともとの株主でした。新たにソフトバンクが、新しい株主になったというような形になりますので、会社自体に何の変化もないということで、株主が替わりましたというような形になります。

 ちなみに、ソフトバンクがイー・アクセスを買収したときは、厳密には株式譲渡ではなくて、株式交換という方法を使っています。株式譲渡との違いは、この買い手から売り手に払う対価の支払い方法が、現金ではなくて株式なのです。ソフトバンクの株式をイー・アクセスの株主に対して発行するのです。ですから、イー・アクセスの株主である売り手は、イー・アクセスの株をソフトバンクに渡すことになるわけです。ソフトバンクからソフトバンクの株をもらうという形で、M&Aがなされるのです。ちょっとこの株主譲渡の変化球で、株主交換といわれます。

 株主交換というのは、今申し上げたように、ほとんど株式譲渡と一緒なのですけれども、ここの部分ですね、対価の支払い方法が株式で支払うという方法です。これは、買い手のほうが、よほど信用力のある会社でないと、普通売り手が現物給付みたいな形になってしまいますので、なかなか承諾してもらえません。ただし、これができるようになってくると、ソフトバンクがイー・アクセスを買収したときの場合は、買い手であるソフトバンクは、新たに株を発行しているのです。新たに株を発行して、1円も使わずにそれをイー・アクセスの元の株主に渡しています。大体1500億円ぐらいでイー・アクセスを買収したのですけれども、お金は1円も使わずにイー・アクセスを買収するというやり方を実現しています。

 本来的に言うと、そういうことをやるために経営者というのは株価を上げている時代ですね。株価が高い会社ならば、高い会社ほど、こういったときに、有利になります。こういうような方法を、実際には取らずに、検討せずに、株価を上げよ株価を上げよと単純に考えられている経営者がいらっしゃるとすれば、それは本来的には得策ではありません。何かのビジネスをしたいときに、株式市場からお金を集めましょうとか、会社の賠償をしたいときに、またお金を集めましょうといったときに、株主が納得していただけるように株価を維持する株価を上げておく、というのが本来的な考え方だと思ってください。

 次は増資の場合なのですけれども、増資というのは、資本を増やすというものの略です。大きく分けると、二つあって、株主割当増資というのと第三者割当増資というのがあります。通常は第三者割当増資です。第三者割当増資というのは、会社がお金を必要になりますと、広く大衆からお金を集めていこうということで、もともとの株主にも働きかけるし、これから新たに株主になっていただけそうな方にも働きかけます。ですから、これのほうが、広く第三者からお金を集められますので、通常少なくとも上場会社が増資をするときなどには第三者割当増資になります。そして、増資が行われた結果、株主の出資比率が変わるのです。もともと居た株主以外に、新しい株主が入ってくることになりますので、出資比率が変わることになります。ですから、旧株主、もともといらっしゃる株主に不利にならないように、うまく出資比率とか発行する金額などを決めていかないといけないという作業が出てきます。

 株主割当増資のほうですけれども、これは、ちょっとイレギュラーというか、第三者割当増資と比較すると特殊なのですけれども、もともと居る株主だけにもう1回株を買ってくださいお金を出してくださいという方法です。ですから、広くいろいろな方からお金を出してもらうことができない。厳密に言うと、既存の株主から出資比率を変えずに出してもらうのが株主割当増資です。AさんBさんCさんと株主が3人いらっしゃるとして、40パーセント30パーセント30パーセントで今の株主は持っているとする。株主割当増資というのは、その4対3対3の比率で新たに株を出してもらうというのが、厳密に言うと株主割当増資です。

 いずれにしても、既存の株主あるいは既存の株主以外から、また新たに会社にお金を入れてもらうというのが増資です。これは、M&Aでも使われます。新しい株主に過半数50パーセント以上の株を発行してしまうということになると、もともとの株主が居なくなるわけではありませんが、50パーセント過半数を持つ新しい株主が出てくるという意味で、その新しい株主の傘下に対象会社はなってしまうわけです。こういう形で株式譲渡以外にも増資、特に第三者割当増資ではM&Aをされるというケースもまれにあります。

 続いて、事業譲渡です。事業譲渡というのは、上場会社等ではほとんど使われないのです。なぜかというと、上場会社でこれをやろうと思うと、手続きが面倒くさいのです。小規模な事業譲渡を除いては、株主総会で決議しないといけないのです。上場会社で総会を開くというのは、時間もお金もとてもかかり結構大変なことなので、なかなかできません。加えて、事業譲渡の特色として、事業の一部を売買できるのです。例えば、三つの店舗を持っている会社で、1店舗だけ売りたいとか買いたいとかという場合に、この事業譲渡という方法を採ることができます。

 では、事業譲渡の契約はどうなるのかと言いますと、売買の対象となるものを全部書き出ししないといけないのです。仮に従業員が1000人居るお店を売買したり、あるいは事業を売買しようと思うと、その1000人の名前などを全部契約書に書かないといけないのです。新たに契約書を書き直さなければならないのです。

 さらに取引先が2000社あるとする。あるいは保有している資産が4000種類あるとする。そういう場合には、全部をリストアップしないといけないのです。そして、新たに名義の書き換えもしていかないといけないのです。このダブルパンチがあるおかげで、大きい会社では、まず事業譲渡というのは使われないのです。ですから、新聞報道などで、M&Aで事業譲渡というのは、ほとんどご覧になったことはないはずなのです。

 ただ、これは規模が小さくなってくると、メリットが逆に出てきます。株主総会を開かなければならないというふうに言っても、オーナーがお一人であれば、総会はすぐ開くことができます。本人がオーケーということであれば、紙1枚用意すれば、総会の議事録を用意すれば終了です。ご家族で株を持っているということであれば、事実上家族会議が株主総会になりますので、株主の方に了解を取った後は、それこそ、総会の議事録を紙としてきちんと取っておけばいいということになります。

 しかも、事業全体を譲渡する必要がなくなってきますので、実は簿外債務の心配がないのです。事業譲渡というのは、これとこれだけを譲渡しますというような契約をしますので、簿外債務というのは、そもそも帳簿に載っていない債務ですから、それを事業譲渡の契約書に書くわけがないのです。簿外債務を譲り受けますということはあり得ないので、実は意外と楽なのです。

 デューデリジェンスというのがあって、M&Aをする最終局面で、第三者の弁護士とか会計士とかが、対象会社のことをいろいろと精査するのです。対象会社の整理をする際に、一番彼らが気を使うのは簿外債務なのです。帳簿に載っていないような債務がないかというところを極めて細かく調べるのですけれども、事業譲渡ができるということになると、簿外債務の危険性がなくなってきますので、デューデリジェンスも楽になってきます。ということで、実は上場会社等の大企業を除いては、事業譲渡によるM&Aというのが意外とされているという点は、ぜひ知っておいていただきたいと思います。

 この辺りになってくると、そんなにはないのですけれども、吸収合併ですね。吸収合併というのは、例えば、A社という会社がB社という会社を吸収してしまおうというやり方です。吸収合併をした後というのは、B社はなくなってしまいます。もともとのB社の株主というのは、一体どうなるのかという話なのですけれども、これはA社からA社の株式をもともとのB社の株主に差し出すということになります。ただ、そのときに一体幾らの価値を何株渡すのかというところには、企業評価の株主評価、株主数の評価の手法が使われることになって、A社の株主に不利にならないように配慮をされつつ金額を決めていくというような形になります。

 新設合併というものもあって、これは大手では比較的あるのですけれども、吸収合併の場合、どちらかがなくなってしまうのです。ですから、完全に上下ができてしまうので、上下ができないような形で、新しい会社をつくるというものです。新しい会社をつくって、もともとのA社とB社の株主に対しては、この新しい会社ですね、甲社でも乙社でも何でもいいのですけれども、そういった会社の株式を新たに発行するというものです。A社とB社はなくなってしまって、新会社ができるわけですけれども、もともとの株主は、この新会社の株を厚遇してもらうと、こういうような形になるのが、新設合併です。

 事業譲渡でも会社の一部を譲渡することはできるのですけれども、ただ大きい会社、特に上場会社で一部の事業を譲渡しようとした場合に、事業譲渡をやってしまうと、契約がすごく大変になってくるのです。そこで、事業譲渡を使わずに会社分割するという手法があって、会社を二つでも三つでも複数の会社に分けることができるのです。分けた後に、例えば、新会社Bを株式譲渡で譲渡するというやり方も取ることができますので、ご参考までにここでご紹介をしておきます。

 スキームについては以上です。

本誌は、M&Aを売り手、買い手、アドバイザーが三方良し、となるのが当たり前の世界の実現を目指しています。そのためには当事者が正しい情報を得て、安心して相談のできる場が必要です。その実現に向けて本誌は、日本M&Aアドバイザー協会で、以下のサービスやセミナーを提供しております。
                                                                                                                                                                                                  
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