M&A

7年間で回収できるソフトバンクによるイーアクセスの買収

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ソフトバンクとイーアクセスの経営統合が発表されました。詳細は以下のプレゼン資料と、今現在(2012年10月1日 20時現在)は配信されていませんが、孫さんと千本さんのプレゼンがありますので、そちらをご覧ください。

 

○プレゼン資料

http://webcast.softbank.co.jp/ja/press/20121001/pdf/20121001_01.pdf

 

○ソフトバンクUSTREAM

http://www.ustream.tv/softbankcorp-jpn

 

 

ここでは、今回の経営統合の買収金額がどう算定されているのか、開示されている情報から私になりに分析してみました。

 

 

まず、孫さんから説明のあったソフトバンクの考え方です。上記のプレゼン資料P.33に以下の数値は記載されています。

 

設備投資額等2,260億円+顧客獲得コスト1,360億円+SBへのシナジー3,600億円=7,220億円

 

これに対し、実際の今回の買収は

 

企業価値=取得株式価値1,802億円+純有利子負債1,849億円=3,651億円

 

で実施されていますので、大幅に有利な金額設定だ、というのが孫さんの説明でした。

 

 

これは一般的にわかりやすく説明をするための方法でしょうから、もう少し詳細のデータをつかってみます。私はこんなときは、こういったプレゼン資料に加えてIRリリースを確認します。今回の場合でいうと、以下のリンクがそれに該当します。

 

○ソフトバンク株式会社による株式交換を通じての イー・アクセス株式会社の完全子会社化に関するお知らせ 兼 ソフトバンクモバイル株式会社と イー・アクセス株式会社の業務提携のお知らせ

http://webcast.softbank.co.jp/ja/pdf/20121001_01/20121001_01.pdf

この資料を読んで意味の分かる方は、私の説明など不要でしょうから、詳細はおいておいて、ざっくり概要の説明をします。

 

ちなみに今回のプレゼンの中で孫さんは何度も経営統合といっていますが、これは日本的な言葉です。買収される企業のことを考えて、多くの場合、買収とはいわず、資本業務提携、経営統合という表現をしています。しかし、今回は完全子会社化の予定なので、いわゆる完全な買収です。

 

 

今回のスキーム:

株式交換でソフトバンクはイーアクセスの100%株式取得を予定しています。プレゼンのなかでは、イーアクセスよりもイーモバイルの話ばかりがでてきますが、イーモバイルはかつてイーアクセスの子会社で、現在はイーアクセスがイーモバイルを吸収合併しているため、イーアクセスを買収すれば、自動的にイーモバイルビジネスもソフトバンク傘下となるという事情があります。

 

株式交換とは、今回のケースというと、イーアクセスの株主に対して、彼らが持っているイーアクセスの株式とソフトバンクの株式を交換する方法です。会社の価値も発行している株式の数も当然違いますから、イーアクセスの株式1株に対して、ソフトバンクの株式を1株という比率で交換するわけではありません。
まず、ソフトバンクはイーアクセスの株を1株52,000円と評価しています。これに対してソフトバンクの株式の一定期間の平均価格3,108円と比較し、結果、イーアクセスの株式1株に対して、ソフトバンクの株式を16.74株交付することになっています。これはこのあとの株価変動が激しい場合には適正に調整される条件となっています。そして、この株は基本的にソフトバンクが新規発行をすることになっています。

 

したがって、ソフトバンクにとってあまり高い買い物である場合には、ソフトバンクの株主の怒りを買いますし、逆の場合はイーアクセスの株主の怒りを買うわけで、なかなか難しい調整をへています。現に、両社ともに株価算定を外部業者に委託し、さらにソフトバンクはこの買収のプロセスに問題がないというお墨付きである、フェアネスオピニオンをゴールドマンサックスからとっています。また、ソフトバンクは森・濱田松本法律事務所を、イーアクセスはアンダーソン・毛利・友常法律事務所及び長島・大野・常松法律事務所を法務アドバイザーとして起用しており、形式的な瑕疵があることは考えにくいです。

 

よって、ここでは実質的にどちらに有利な条件であったか、検証をします。

 

まず今回の買収金額ですが、トータルで上記の52,000円×発行済株式総数3,465,180株=約1,802億円です。これに対して、本日の時価総額が約658億円。約3倍の評価です。ちなみに今日の14:30以降、イーアクセス株が4千円ほど大幅に上昇していますので、これはインサイダー取引がなかったのか、調査が必要だと思います。
一方で、直近1年間は15,000円から23,000円程度を行き来していますので、今日のストップ高の19,070円という株価はそれなりに妥当な株価といえるかもしれません。

 

○ヤフーファイナンス

http://stocks.finance.yahoo.co.jp/stocks/detail/?code=9427.T&d=1y

もう少し決算書をみていくと、純資産額は864億円(平成24年6月30日現在)。時価総額が658億円ですから、PBRが1を割っています。将来的な収益をまったく見込まれていない数値になっています。一方で、当期の利益見込は135億円です。これに減価償却費(これは正確な数値がわかりませんので、平成24年第一四半期の95億円×4で約380億円とします)を加味すると500億円を超えます。超簡便的なCFの計算では今後1年間で500億円程度のCFが見込めます。ここでは保守的に見て、年間300億円から400億円程度のキャッシュ・フローとみておきます。

○イーアクセス平成24年3月期第1四半期決算短信
http://www.eaccess.net/ir/pdf/tanshin_120810.pdf

まとめます。ソフトバンクは、1,802億円を新たに株式を発行しますが、これはソフトバンクの金庫からお金はでていきません。一方で約2,200億円の借金を引き継ぎます(上記のソフトバンクの考える純有利子負債1,849億円はイーアクセスが持っている現金預金約370億円を引いたあとの数値です)。要は、2,200億円の借金を返せばOKの状態です。これで、864億円の純資産と保守的に見積もって300億円/年のCFを手にします。割引計算をおいておいて、2,200億円の借金を7年のキャッシュ・フローで返してしまえば、今のイーアクセスの設備や顧客がすべて手に入ります。もちろん、ソフトバンクはこの提携効果で一気にユーザーを増やすことを見込んでいるでしょうから、最悪の場合でも損はしない計算になります。

 

一方でイーアクセスですが、これは株価が低迷していますし、テザリングが拡充することによってイーモバイルのデータ通信はこれから飛躍的に伸びていくことはないでしょうから、このあたりでexitを真剣に考えていたのでしょう。そこで株価の3倍程度の評価での譲渡ができたのは、これまたよいタイミングだったと思います。

 

上記からすれば、ソフトバンクはもう少し買い叩けたという考え方も可能です。しかし、実際にはイーアクセスの既存株主の利益を考慮し、彼等から反対意見がでて、最悪裁判などになった場合でもまず勝てるという金額を設定したのだと思います。それが証拠にゴールドマン・サックスからのフェアネスオピニオンを含めた慎重な対応になっているんだと思います。よって、株価と比較するとできるだけ高値で、しかし、ソフトバンクにとって、最悪のケースでも大損はしない、この価格設定となったとみています。

あとはiPhoneユーザーとして、快適なモバイルインターネット環境が激しい競争のなかで生まれていくことを期待します。これも孫さんや千本さんだけでなく、第ニ電電を作った稲盛さんら、改革の騎士たちの長い間の努力、切磋琢磨の結果だと思います。私達の業界も遅ればせながら、こういった例にならい、ユーザー目線でもっともっと素晴らしいサービスを激しい競争のなかで生み出していかなければなりません。


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