M&Aのハウツー

スタートアップ企業でなぜ10億円超えの巨額買収・M&Aが続くのか


 今日は、スタートアップ企業で、“なぜ10億円超えの巨額買収・M&Aが続くのか”というテーマについてお話させて頂きます。

スタートアップ企業買収の事例

 まず、初めに2014年のスタートアップ企業の買収の事例について紹介します。
nanapiがKDDIに77億円の評価をされて、資金を入れてもらっています。iemoは (MERYを含むとリリースされていますが) DeNAに100億円の評価を得ています。つまりスタートアップ企業が大企業に10億・100億円の評価を受けて、買収または資金の提供を受けているといった状況になっています。

 ちなみに2013年には、Cyta.jpを運営するコーチ・ユナイテッドが債務超過の状態であったにも関わらず、cookpadに10億円で譲渡(売却)されています。
 「なぜ、このようなスタートアップ企業が大企業に売却をするのか?」いくつか理由がありますが、4つにまとめてみると以下のようになります。

・EXIT
・大規模投資ができる
・従業員の安心感
・管理業務のノウハウ

 一番の理由は、“EXIT”です。大企業に評価されるだけの会社を作った訳ですので、経営者(起業家)はそれなりの報酬を現金(キャッシュ)で得ようするため、EXITの手段として、大企業に売却するといったことが1つとして考えられます。以前であれば、M&Aによって大企業へEXITをするといったことは少なく、IPO(上場)を目指している会社が殆どでした。しかし、IPO(上場)できる企業はせいぜい年間200社ぐらいです。(最高にIPOが盛り上がった年でも年間200件程度です)。M&Aは年間2500件ぐらい成約しています。ですので、単純に考えるとM&Aで企業を売却する方がIPO(上場)するよりも、10倍以上チャンスがあるわけなのです。

 2つ目に「なぜ、大企業にスタートアップ企業が売却するのか?」ということについてですが、大企業は“大規模投資ができるから”です。スタートアップ企業が大企業に買収される(大企業に売却する)場合、現在の経営者が引き続き経営を続けるケースが多くあります。スタートアップ企業が自社だけでやっていると、ベンチャーキャピタルやその他の事業会社などから資金を入れてもらったとしても、大きな投資を行えることは非常に少ないです。しかし、KDDIやDeNAのような大企業に買収されれば、そのような会社の力を使って投資することができるので、今まででは考えられなかったような大規模な投資ができるようになるわけです。つまり、一気にスタートアップ企業のステージは変わることができるのです。

 3つ目は、「従業員の安心感」です。スタートアップ企業に参加するスタッフ(社員・メンバー)の方は、ベンチャーが好きで入社される方が多いと思います。しかし、従業員が30人、50人、そして100人ぐらいの規模の会社になってくると、そんなリスクテイカーの社員ばかりでなくなってきます。むしろ安心感を持って、日々生活をしていきたいといった人たちも社員として取り込んでいかないと、組織として上手くいかないことが目立ってくるステージ(時期)だと思います。そんな時に、大企業のグループ会社に入っていれば、“安定感を求めるようなスタッフ”の方々も、安心して日々の仕事をすることができるわけです。よってスタートアップ企業が大企業に売却する理由として「従業員の安心感」というのは大きな要素だと思います。

 そして、最後は「管理業務のノウハウ」です。スタートアップ企業(ベンチャー企業)は、営業とか開発とかが会社の中心となっているので、管理業務がおろそかになることが多々見受けられます。KDDIとかDeNAは東証一部に上場しているような会社ですから、彼らの管理業務能力はすごいものです。スタートアップ企業というのは、ゴチャゴチャの中でビジネスをしていくというのが、世の常だと思います。そんな業務の中には、管理業務(バックヤード)がビシッと揃っている中では、本来ならばそんなことしなくてもよいといったこと、例えば経理業務や契約書のチェックを経営者や副社長クラスの方がしなければならないとかなどということが含まれるわけです。一方で、大企業の傘下に入った途端、彼らには管理部門の専門部隊がいますので、自分たちが行うよりも早く、そしてより正確に厳しいチェックをしてもらうことが可能になります。このようなメリットも、目には見えにくいですがスタートアップ企業が大企業に売却するメリットして考えられると思います。

反対に“なぜ、大企業がスタートアップ企業を高値で買収”しているのかということについてです。

なぜ、大企業はスタートアップ企業を高値で買収しているのか

 1つ目は、間違いなく“アイディアを買う”ためです。大企業の中には優秀な人材もいますし、実績も資金の余力もあります。但し、これからの時代は新しいビジネスを作っていかなければいけません。でも大企業内には新しいアイディアが無い場合もあります。大企業にとってビジネスのアイディアを外から買ってくることが、一番のインセンティブとなっています。

2つ目は「ユーザーを買う」といったインセンティブです。スタートアップ企業(特にIT系のスタートアップ企業)は、全く売上や利益が立っていないが、ユーザーは沢山持っているビジネスが沢山あると思います。例えば、大企業はそこに“売るものを持ってくる(既に持っている場合)”のです。グーグルがユーチューブを買収したという事例は、これに近いケースです。
ユーチューブというのは、当時はほとんど売上が上がっておらず、大赤字を垂れ流している状態の会社でしたが、グーグルがユーチューブを買収して、広告を売ることができるようになったのです。ユーザーがいくらいても、売上が立っていなければ、会社というのはいつか潰れてしまいます。したがって、このような企業は、上場して資金調達をするのか、どこかの会社に買収されて資金を得る、そして最終的には売上を伸ばしていかないと、会社を続けることができないのです。このようにユーザーは沢山いるのだが、まだまだそれを生かしきれていないスタートアップ企業に対して、大企業は“ユーザーを買いに来る”といった考え方もあります。

3つ目は「人材を買う」ということです。優秀な人材というのは(特に独立してやっていけてしまうような人材というのは)、なかなか手に入らないものです。いくらお金を積んでも転職市場でアクセスしようとしても(採用しようとしても)、なかなか大企業には入ってくれません。そのような人たちを会社ごと買ってしまうことによって、大企業のグループの一員として、その優秀な人材を使うことができる。大企業側からの目線で言うと、こういったメリットも十分考えられます。

スタートップ企業の経営者からすると、次に重要になってくるのが“高値での会社売却を狙う”ために、どのようなことをするべきなのかということです。

 高値で会社売却を狙うために、売り手(スタートアップ企業)に有利な状況というのは“圧倒的にユーザーを抱えている”状況の場合です。仮に、スタートアップ企業単体で利益が出ていなかったとしても、“売り物を持っている大企業”からすれば、そのスタートアップ企業は“宝の山”なわけです。大企業はそれだけのお客さん(圧倒的なユーザー数)にアクセスすることができたら、「うちの広告もっと売ることができる」、「うちのソーシャルゲームをもっと売ることができる」と考えれば、買い手(大企業)からするとものすごい価値がある訳です。

次に、売り手であるスタートアップ企業に重要なことは、“短期的な資金繰りに苦しまない状態にある”ことです。圧倒的にユーザーを抱えていたとしても、「3ヶ月或いは半年程度で手元の資金が無くなってしまう」といった状態では、大企業に足元を見られてしまいます。この場合、買い手である大企業からすれば、3ヶ月か半年ぐらいその会社(スタートアップ企業)を泳がせておけば、安い譲渡金額で大企業に助けてもらうしか方法は無くなるわけです。スタートアップ企業が交渉力を持っておくという意味で「そんな条件ならば、御社から資金を入れて頂く必要はありません」と言えるだけの資金繰りの余裕が無いと高値で売却するといった観点からすると不利になってしまいます。
短期的な資金繰りに苦しまない状況にあるということは、“高値で会社売価を狙う”ためにはとても重要なことなのです。売り手(スタートアップ企業)に目先のお金がなかったら提示された金額や条件が悪くても、飲まざるを得ない話になってしまうのです。買い手である大企業に「だったら潰れますか?」と言われない状況にしておくためにも、短期的な資金繰りに苦しまない状態、つまり早めにある程度アクションをしていかなければならないのです。「もうすぐお金が無くなるからどうしようか?」では遅すぎるのです。

3つ目はもっとも大事なことです。「大企業のアタマのよい人材に負けない将来ストーリーづくりができる」ということです。
「うちの会社(ビジネス)は、これだけユーザー(顧客)を集めてきました。これからはこのような商品を投入していくので、将来はバラ色です」といったストーリーを作り上げることができるのかが重要です。一方では大企業はこのストーリーを作り上げることができないことが多いので、スタートアップ企業を欲しがるわけです。大企業は新しいビジネスのネタがあまりありません。
しかし、これから新しいユーザーを作ろう、商品(商材)を作ろうとしています、そこに対して提案をするには、これから倍々ゲームで売上が上がっていき、将来非常に有望です。自社単体でも今後はバリバリ稼いでいけます」という絵をしっかりかけるかどうかが重要になってくるのです。しかも、説得力が無いといけません。鉛筆をなめただけの右肩上がり事業計画というのは誰でも書くことができるのです。「いや、3年で売上3倍にします。10倍にします。」と言うのは勝手なのですが、どうやったら3倍に10倍になるのかというストーリーをしっかりと作ることが、大企業の目線で見ると重要となります。なぜなら彼ら大企業は、このようなストーリー作りをできなくなっているからです。

そのようなバラ色のスケジュールを描く時に陥りがちな点として、「よくあるM&A交渉の失敗」についてお話をしていきます。

よくあるM&A交渉の失敗

 “バイアウト先(買い手)の沢山のユーザー数・リソースを頼りにした事業計画やバリエーションを提案してしまう”ことが、よくあるM&A交渉の失敗例の1つです。
例えば、cookpadというサイトビジネスがあり、月間延べ4000万人以上のユーザーがいます。彼らが買い手だとした場合、売り手であるスタートアップ企業は「cookpadさんには、ユーザーが4000万人いますよね。その4000万人にアクセスして1%のコンバージョンを達成すれば、40万人のユーザーが取れるはず。その40万人にうちの商品を買ってもらえれば、うちの売上・利益はこんなにも上がります。だから、うちの会社のバリエーションは10億円です。」というのはダメなのです。
なぜならば、このような考え方は“相手(買い手)の力を評価しているだけ”だからです。売り手は“自分の会社でこれだけの価値を出せる”ということを絵(ストーリー)にして語らないと、買い手には「それはうち(買い手側)の話ですから」と言われてしまいます。もちろん、彼ら(買い手)がどれだけの力があるのかということを押さえておくことは、売り手であるスタートアップ企業にとって非常に重要なことですが、それを表向きに売り手は「御社(買い手)にこれだけの力があるのですから、うち(売り手)をもっと評価してください」といったスタンスは、避けておかなければいけないことです。当然ですが、背景に買い手側にどれだけの余力があるのかを押さえておくことは必要です。

 このような状況の時“私ならこうする”ということについてお話しします。例えば、売り手(スタートアップ企業)に“圧倒的なユーザーが存在している”が、自分の会社には、キャッシュポイントが無い(要するに、なかなか収益が上がらない)。このような場合には、“現在の業績には問題が無いが、将来のソフトビジネスへの展開にエンジンを欠いている買い手(大企業)に対して、将来のサクセスストーリーを描いた上で買収提案を実施する。”ことにします。
KDDIなどは、この典型的な企業であったはずです。今、KDDIのビジネスは絶好調なのですが、彼らの収益の大半は携帯電話の販売と課金のビジネスとなっています。将来のKDDIのソフトビジネスにおいて「これが核になるよね」といったビジネスは、現在持ち合わせていません。そのため、KDDIはそれを作っていきたいのです。ハードやネットワークだけで将来20年間・30年間同じように稼いでいくことは出来ないと自分自身で考えているはずです。そのような状況に対して、将来は今のユーザーの10倍・20倍あるいは世界的にソフトビジネスを展開することができるようなサイトやビジネスがあるとしたら、KDDIは喉から手が出るほど欲しいはずです。売り手はこのような会社に提案をしていくわけです。

 次に“ビジネスモデルによるバイアウト先の違い”について説明します。売り手であるスタートアップ企業、が集客はできているが、マネタイズが弱い場合については、先ほど説明しました “顧客に販売するものを持っている企業がバイアウト候補”となります。グーグルがユーチューブを買収したようなケースです。冒頭で紹介しました、iemoをDeNAが買収したようなケースも同様です。iemoはユーザーを沢山持っています。このユーザーに対して、DeNAは売る物を沢山持っています。(例えば、ソーシャルゲームやネットオークションなど)DeNAのような売る物を沢山持っている企業は、販売先を求めてM&Aをするとったパターンです。ユーチューブの場合も同様です。グーグルが広告を売るユーザーを求めて、大赤字ではあったがユーザーを沢山持っているユーチューブを買収したのです。

もう一方として,“マネタイズ機能があるのだが…”といった企業の場合です。
この場合は、顧客は沢山いるのだが、売りものが無い企業がバイアウト候補先となります。
cookpad がCyta.jp を2013年に買収しました。cookpad は優良企業で、このような企業に対して“売り物が無い”というのは失礼かもしれませんが、月間4000万人以上のユーザーいるので、「うちにはまだまだ売れる物があるのでは?」と考えていたはずです。
そのような状況であったため、1つでも多くの商品やサービスを欲しがっていたと思います。そのため、マネタイズ機能があるが、これから先は自社だけでユーザーを取り込んでゆくは時間が掛かりすぎる。しかし、cookpadと組んでやっていけば、時間を短縮してさらに自社のユーザーを拡大していくことが可能となります。一方、買い手であるcookpadは沢山のユーザーを抱えているので、彼らは少しで売れる商材・サービスを欲しがっている訳なので、両者の利害が一致する訳です。

売り手であるスタートアップ企業を、大きく分けるとこのように“集客はできているがマネタイズが弱い”パターンと、“マネタイズ機能がある”が、これからお客の層を厚くしていく、または売上を増やしていこうとすると、「時間が掛かりすぎるので、大企業とうまく組んでいやっていけないだろうか?」といったようなパターンとで、バイアウト先を大きく分けることができるのです。

最後になりますが、2013年にcookpadがCyta.jpを運営しているコーチ・ユナイテッド株式会社を買収した際の直前の財務状態について説明します。

cookpadによるコーチ・ユナイテッド株式会社買収の事例

これは、2013年9月27日にcookpadからリリースされている資料なのですが、直前の売上は約1億円です。そして、営業損失が1,500万円の会社となっています。純資産がマイナス493万円となっているので、債務超過の状態だったわけです。つまり、cookpadは債務超過で営業損失が1,500万円の会社を買収したのです。
皆さんは「なぜこのような企業に10億円もの金額が付いてのだろう?」と疑問を持たれると思います。もちろん、私はこのディール(買収劇)について、直接知っているのではありません。だからこそ推測で皆さんにお話しすることができるのですが、投資するサイド(買い手)は10億円の投資をする際にどのようなことを考えていると思いますか? 私なら“最悪でも10年間で回収できる目途が立っていなければ、絶対に投資はしません”。ですので、買収後は年に最低でも1億円ぐらい稼ぐことができる目途が立っていないと、このような買収はできないと思います。それでは、利益ベースで年1億円稼ぐ(厳密に言えばキャッシュフローですが)にはどうしたら良いのか?
 コーチ・ユナイテッドは1年間で1億円しか売上が無い状態で赤字でした。その状態で1億円の利益を出さないといけないのですが、このCyta.jpというサイトは客単価が5,000円から6,000円ぐらいのサービスを提供します。おそらくですが、広告宣伝費・その他人件費などもかかりますので、少なく見積もって1件あたり1,500円ぐらいの利益が出ると仮定します(1件のビジネスが成立した際に、1,500円ぐらいの利益がでる)。
このビジネスが、年間1億円の利益を確保するためには、月間1,000万円程度の利益が出ていれば(年間で1億2000万円ですので)目標はクリアすることが可能です。月間1,000万円の利益となりますと、1顧客あたりの利益が1,500円ですので、約1万人弱のユーザーから売上が立てば、採算が合うことになります。
 
 そのようなことを考え、先ほど説明しましたがcookpadには4,000万人以上の月間延べユーザーがいるので、そのユーザーに対してプロモーションをかけていきます。その4,000万人に対してプロモーションをかけて、うち1万人のユーザーが、Cyta.jpを利用してもらえれば、月に利益が1,000万円というのは楽々クリアできるようになります。(1,500円× 1万人=1,500万円)
 
 そうなりますと、cookpadは、どう悪く転がっても10年間あれば回収できるだろうと考え、このスタートアップ企業、現在は赤字で債務超過かもしれないが、10億の価値は十分にあると判断し、投資の決断をしたのではないかと思います。
 
 反対に、売却する側(コーチ・ユナイテッド:Cyta.jp)からすると、将来は月間1万人ぐらいのユーザー数を確保できるかもしれませんが、現在は赤字で債務超過です。自力でそのような顧客候補にアプローチし、顧客にしていこうとすると相当な時間が掛かってしまいます。最悪の場合は、資金がショートしてしまいビジネスを続けていくことができなくなる可能もゼロではないのです。そのような状況で、スタートアップ企業に大企業からまとまったお金が入ってきて、大企業のグループとして経営ができるとなると、短期的に資金がショートするといった可能性もほぼゼロとなります。また、cookpadが持っているユーザーにも直接アクセスすることができます。

 数字だけみると「赤字で債務超過のスタートアップ企業に大企業が10億円も資金を出すというのはどういうことだ?」と思われる方が多いかもしれませんが、このような絵(ストーリー)を腹の中に持ちつつ、「このビジネス(企業)には10億円の価値があるのか?無いのか?」と交渉の仕方や提案の仕方を工夫することによって、ビジネス・ネタ・人材・アイディアを買いに来ているのです大企業に対して有効な提案が可能になります。

売却する側のスタートアップ企業にとってみれば、成長するためのエンジン(投資余力)あるいは大企業の管理能力・人材などに頼って、このようなディールが最近では成立しているのです。金額にどれだけの妥当性があるのかというのは、案件各々の条件を確認する必要がありますが、売り手・買い手のお互いにとって、メリット・デメリットが大きい話では無いと思います。cookpadがCyta.jpというサイトを10億円で買収したというのは「それほど無茶苦茶な金額ではないのかな?」と思いますし、このような前提を作ることができれば、スタートアップ企業のみなさんにも10億円以上の単位での売却のチャンスがあると思います。

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